韓国の「伝道師」が語る50年 いつも文化の絆あった

日韓を市民レベルでつないだ文化交流

今村氏の企画書の趣旨はこうだった。「我々は欧米のヒット曲は知っている。サンバやレゲエもワールドミュージックと認識され人気を呼んでいる。ところが、身近なアジアの音楽には無頓着だ。アジアのアーティストを通じて互いの理解を深める意義は十分にある」

この趣旨に賛同して、香港からは映画「Mr.BOO」で人気だったサミュエル・ホイさんや、ベトナムのハノイに生まれ、南北の争いに巻き込まれ、ボートピープルとして米国に逃れた歌手カン・リーさんほか、5つの国と地域を代表するアーティストが集まった。日本からはアジア音楽に造詣の深い谷村新司さん、堀内孝雄さん、イルカさん、加藤登紀子さんが参加してくださった。

そして、今村氏がイベントの目玉と考えていたのは、地元の韓国はもちろん、日本にもファンの多いヒット曲「釜山港へ帰れ」で知られるチョー・ヨンピルさんだったようだ。

「日本と韓国の間には、歴史を巡り繊細な、様々な問題が横たわっている。例えば韓国では公の場所で日本語の歌は禁じられている(イベント当時)。ヨンピルさんが日本の放送局の主催するイベントに参加することを快く思わない韓国の人がいるかもしれない。重い歴史の荷物を背負って来てくれたヨンピルさんの恩に報いたい」

こう考えた今村氏はヨンピルさんの地元を訪ね、酒を酌み交わすまでの関係を築いた。韓国通の佐野さんは、今村氏に韓国の、とりわけ音楽界の現状を伝え、通訳を兼ねてヨンピルさんと共に食べ、飲み、カラオケを共にして、ヨンピルさんとの親交を深めた。

こんな「下準備」を知らぬまま、当日、超満員の渋谷公会堂の熱気に圧倒された、入社9年目だった私は、ただただヨンピルさんたちアジアのスター歌手の歌声に驚き、酔いしれるばかりだった。このイベントで「日本デビュー」を飾ったヨンピルさんはその後、日本での活動を本格的にスタートさせ、「想いで迷子」など様々なヒットを飛ばし、「NHK紅白歌合戦」に連続出場することになる。

友人によれば、先年、東京国際フォーラムで行われたコンサートで、ヨンピルさんが「私の日本での音楽活動のきっかけは文化放送のアジアミュージックフォーラムというイベントでした」と語ったと聞き、感無量だった。

韓国通の佐野さんとは今でもしばしばお目にかかる。「テレビでは今の日韓関係は史上最悪って言っているけど、この言葉、過去に何度も言われてるんだよね。政治的にいえば、関係がよいときより、悪い時期のほうが長いだろうしね。そんな状況を緩和するうえで、ヨン様ブーム、韓流ドラマ、韓国ミュージカル、韓国料理、K-POPがそれなりの役割を果たしてくれたんだと思う。今こそ、文化交流にもっと目を向けるべきなんだけどなあ」

韓国ミュージカル「パルレ」の「日本語版成功の功労者」としてソウルの劇場で表彰された佐野さんの言葉に説得力を感じる人も少なくないだろう。

※「梶原しげるの「しゃべりテク」」は毎月第2、4木曜掲載です。次回は2019年10月10日の予定です。

梶原しげる
1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。

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