ひらめきブックレビュー

古舘伊知郎式、感動の伝え方 「間」を取り言葉を凝縮 『言葉は凝縮するほど、強くなる』

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

あなたは「会話」に自信があるだろうか。もしも苦手意識があるのならば、本書『言葉は凝縮するほど、強くなる』を開いてみてほしい。プロレスやF1の実況中継でおなじみだった古舘伊知郎氏が、長年考え続けた会話術のスキルをまとめた一冊だ。

アナウンサーやキャスターとして40年超、言葉と付き合う中で古舘氏が培った極意。それは言葉を凝縮した「一点突破の凝縮ワード」だ。これは相手とのコミュニケーションが成立したと感じた時点で、ペラペラ話すことを切り上げ、自分の真意を渾身(こんしん)の一言にして伝えていく、という方法である。

■「一人と呼ぶには大き過ぎる」

本書にはそんな言葉の凝縮法が紹介されている。その一つ「キャッチフレーズ法」は、伝えたいことを最も魅力的に伝えたい場合に有効だ。この技のキモは対象を分析し本質を見つけることである。

古館氏はプロレス中継をしていた頃、プロレスラーにキャッチフレーズをつけてその特徴や魅力を伝えていた。あるとき、2メートル23センチの身長、200キロ超の体重のあるアンドレ・ザ・ジャイアント選手を中継するにあたって、ジャイアント選手の本質はあまりにも大きな肉体にある、と分析した。1人なのにまるで2人いるかのような巨大さ。そこで古館氏はこう呼ぶことにした。「一人と呼ぶには大き過ぎ、二人と呼ぶには人口の辻褄(つじつま)が合わない」と。

このキャッチフレーズは当時、かなり観客を沸かせたそうだ。

■感動を伝えたいときには「間」を

「感動」の伝え方にも古舘流のテクニックがある。心が動いた際に「感動しました」「最高でした」というありきたりな言葉しか出てこないときがあるだろう。そんなとき、古舘氏は「感服」という言葉を使うそうだ。これなら相手に対する尊敬の念までも伝えることができる。さらに伝え方にも一工夫。相手の目を見て、ひと呼吸ふた呼吸、つまり「間」を置く。そのうえで静かなトーンで一言「……感服しました」と言うのである。

あえて感情を抑え、間を置いて、気持ちを一言に込める。するとしみじみとメッセージが凝縮する。この手法を古舘氏は「言葉の煮こごり化」と呼んでいる。

本書には「お互いの孤独を認め合う」といった古舘氏独自のコミュニケーション哲学も披露されている。本書で言葉を凝縮する数々の方法を知れば、他愛ないおしゃべりも盛り上がるに違いない。

今回の評者=はらすぐる
情報工場エディター。地方大学の経営企画部門で事務職として働く傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディターとして活動。香川県出身。

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。