会社の半数は20年で消滅 「ウチは大丈夫」が命取り第42回 正常性バイアス

東日本大震災が発生して、すぐに各地に津波警報が出されました。ところが、避難する時間が十分にあったにもかかわらず、ひっくり返った家の中を片づけたり、隣人とおしゃべりをしたりする人が続出しました。

なかには、壊れた家の写真を撮ったり、間もなくやってくる津波を見に行った人までいます。みんな「まさか」「自分だけは」「ありえない」「まだ大丈夫」と思ったのです。

これを「正常性バイアス」と呼びます。予期しない状況に遭遇したときに、都合の悪い情報を無視や過小評価することで、心理的なストレスを軽減しようとする働きです。

なぜブラックバイトを続けてしまうのか?

正常性バイアスは、天災、火災、事故、テロなど、さまざまな危機で見られます。逃げろと言われて逃げないどころか、わざと落ち着いた態度を取って、気持ちを静めようとします。経験者ほどそのワナにはまりやすいとも言われ、「経験の逆機能」と呼びます。

しかも、同調性バイアス(第3回)とあいまって、事態を余計に悪化させます。「みんなが落ち着いているから、きっと大丈夫」「自分一人オタオタするのは格好が悪い」となるからです。

典型的なのが、一時マスコミを賑わせたブラックバイトです。たとえば、ある大学生が運悪くブラック企業で働く羽目になり、ありえないほど理不尽な働き方を強要されているとします。中年の正社員ならまだしも、バイトだったらすぐに辞めればすむ話です。

ところが、「自分が未熟なせいだ」「いつまでも続くはずがない」と思って我慢をしてしまい、こき使われる羽目になります。なかには「本当はよい上司(会社)なんだ」とさえ思う人も出てきます。誘拐犯を好きになる「ストックホルム症候群」を呼ばれる現象です。

マニュアルから逸脱した危険な行為を繰り返す、慢性的に偽装工作をやる、といったときにも同じような心理が働いていると言われています。「これくらい大丈夫」「自分は大丈夫」「今度も大丈夫」と考え、破局への道をつき進んでしまうわけです。

災害から学ぶバイアスへの対処法

正常性バイアスから逃れるには、都合の悪い情報に真摯に向き合い、最適な行動を考えるしかありません。ところが、分かっていてもできないのが、この種のバイアスの怖いところです。

決定的な対処法は見つかっていませんが、防災の分野では優れた成功事例があります。東日本大震災における「釜石の奇跡」の話です。独自の防災教育によって、バイアスを打ち破って見事に避難を敢行し、ほとんど犠牲者を出さなかった釜石市の事例です。

釜石市では、「率先避難者たれ」を合言葉に、避難の徹底を教育しました。「津波が来る!」「早く逃げろ!」と声に出し、自らが模範となり、一番に逃げることを教え込んだのです。

そう言われると、「まだ、逃げなくてもいいだろう」「自分だけは助かるに違いない」とノンビリ構えている人も我に帰ります。どうしようかためらっている人も、危機感を覚えます。そうやって何人か逃げ始めれば、同調性バイアスがよい方向に働き、みんな逃げるようになります。

問題は、率先避難者をどうやってつくるかです。釜石が素晴らしいのは、その役目を生徒たちに担わせたところです。「君が逃げれば他の人もついてくる。君たちが小さい子やお年寄り、ひいては地域のみんなを助けるんだ」と叩き込んだのです。人は、誰かのためなら、頑張ることができるからです。

会社経営やコンプライアンス上の危機の話も同じ手が使えないでしょうか。同じ職場で働く仲間やその家族、商品を長年愛してくれるお客様など、近しい人に思いをはせれば、率先して行動できるかもしれません。勇気と覚悟のある方はぜひお試しあれ。

堀公俊
日本ファシリテーション協会フェロー。大阪大学大学院工学研究科修了。大手精密機器メーカーで商品開発や経営企画に従事。1995年からファシリテーション活動を展開。2003年に日本ファシリテーション協会を設立、研究会や講演活動を通じて普及・啓発に努める。著書に「ファシリテーション入門第2版」「会議を変えるワンフレーズ」など。

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