「若者はネット検索しない」といわれて数年たつが、実際はどうなのか。検索しないのなら、商品の情報取得や購買の導線はどうなっているのか。調査データや取材から、美容系をメインに若者のショッピング事情を分析した。

ネット検索しない若者に、どうリーチすればいいの? ※画像はイメージ(Pangaea/PIXTA)
ネット検索しない若者に、どうリーチすればいいの? ※画像はイメージ(Pangaea/PIXTA)

テキストよりもビジュアル情報が刺さる

 2016年にあるタレントが「若い人はネットを検索しない」と発言したことが話題になった。それまでSEO対策を熱心に行っていた大人たちには衝撃の事実だっただろう。Web検索を使わないで何を使っているかといえば、Instagramだという。「テキストよりもビジュアル情報が若者に刺さる」といった発言もあった。

 それから数年がたち、その傾向はデータとして裏付けられている。マクロミルが18年8月に公表した消費意識やお財布事情などの調査によると、SNSの情報に影響を受けて買い物をする人が半数だという。15~24歳では「かなり影響を受ける」「まあまあ影響を受ける」と答えた人が63.6%、25~38歳では50.9%に上る。さらにその中からどのSNSに影響を受けたかとの問いには、15~24歳ではトップがTwitter(44.8%)、続いてInstagram(44.3%)、25~38歳ではトップがInstagram(55.5%)、次がTwitter(18.5%)となっており、InstagramとTwitterの影響が大きいことが分かる。

 SNSでの検索は、テキスト入力だけでなくハッシュタグによる検索も使われる。ハッシュタグ検索なら、タップするだけで欲しい情報が手に入る。Instagramはハッシュタグをフォローすることもできる。例えば「#コスメ」をフォローしておくと、そのハッシュタグを付けた投稿がフィードに表示されるようになる仕組みだ。

 またInstagramによると、企業の公式アカウントをフォローしているユーザーの割合は80%を占めている。ハッシュタグと公式アカウントをフォローしておけば、検索するまでもなく自動的に情報が集まってくるのだ。

 さらにここ数年、SNSに投稿される主なコンテンツが動画へ移行してきたことも、SNSでの情報取得に拍車をかけている。写真だけでは商品の詳細が分からないが、動画ならさまざまな角度からチェック可能だ。雑貨や家電なら使い方のレクチャーも見られるし、洋服ならモデルの動きから布の質感も分かる。写真ではごまかせる情報が、動画ではごまかしにくいこともあるだろう。

コスメ情報はSNSとYouTubeから

 ショッピングといっても商材は多岐にわたるので、流行に敏感な若い女性たちの必需品、コスメの購買動向に絞ってみる。

 現在の若い女性がどのようにメークを覚えるかご存じだろうか。それはYouTubeだ。すっぴんからメークを完成させる動画が多数投稿されていて、女性たちはそれを参考に練習する。メークに関する雑誌なども販売されているが、プロのメーキャップアーティストではない人が市販のコスメでメークする動画はリアルさが違う。

 TesTee Labが19年4月に行った「美容系アプリに関する調査レポート」でも、10代後半~20代後半の女性のうち、コスメに関する情報収集方法に「YouTube」を挙げている人は多い。10代後半では52.3%、20代前半では34.6%、20代後半では21.8%だ。ちなみにどの世代でも1位は「SNS」で、7割を超えている。

 興味深いのは世代によってSNS以外の回答がばらけていることだ。10代後半はSNS、YouTubeの次は「友人・家族」がランクイン。クチコミを重視する傾向がうかがえる。YouTubeについても、配信者からオンラインでクチコミ情報を得ていると捉えることができる。

 ある女子高生は、「YouTubeで100円均一のコスメを使ったメーク法を見ている」と言っていた。オルチャンメーク(韓国風メーク)や欧米人に見える濃いめのメークなどを勉強し、学校で披露するという。自分の好みの配信者が動画をアップすると必ずチェックし、使っている化粧品を見せるシーンをスクショ(スクリーンショット)で保存しておくそうだ。

メークやコスメ情報は動画で得る時代 ※写真はイメージ(Hanna/PIXTA)
メークやコスメ情報は動画で得る時代 ※写真はイメージ(Hanna/PIXTA)

 20代前半は、Webサイトが2位(34.7%)と出ている。「Webサイトを検索しない」といわれているが、SNSで知った情報をさらに掘り下げるなら、公式サイトなどを見る必要がある。ある女子大生も、気になったコスメは必ずWeb検索して情報を得ると言っていた。コスメサイトのクチコミやブログのレビューを参考にしているそうだ。

 20代後半になると1位はSNSだが、2位はWebサイト(41.4%)、3位は店頭(38.9%)と、自分自身の判断が大きくなる。SNSで知り、サイトを検索、そして店頭で検討するという導線になっている。メークに関して、自分なりの知識と経験がたまっていることもあるだろう。

購入はネットではなく実店舗で

 では、購入までオンラインで完結しているのだろうか。10代がメルカリで中古の化粧品を買うという話は聞く。使いかけの口紅は使用した箇所をカットすれば抵抗はないし、新品だと高くて買えないブランドのコスメも手に入る。元は無料だった試供品も、チャレンジしたい品なら購入するそうだ。

 しかし、大半は店舗で実際の色みなどを確認して購入している。10代、20代ともECサイトの利用は20%台だ(TesTee Lab「コスメのEC利用に関する調査レポート」より)。

 若い世代といってもメークの熟練度など他の要因も関わるため、ひとまとめにはできないが、SNSが潜在顧客に対する認知のきっかけとなっていることは分かるだろう。

 若い世代がSNSで情報を収集している主な理由は、「情報取得に手間がかからない」「動画で詳細が分かる」「クチコミも同時に得られる」などだ。Webサイトの検索は情報を深掘りするために行う。企業の販売担当者はこの流れを考慮し、SNSでの情報発信、そしてSNSからのランディングページの充実、さらに実店舗への誘導に尽力する必要がある。

(写真提供/PIXTA)

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