地域保健学域教育福祉学類教授 伊藤嘉余子氏
社会的養護には大きく二つあり、児童養護施設などにおける施設養護と、里親や特別養子縁組などにおける家庭養護があります。日本は先進国の中でも里親が少なく、施設養護を中心に行ってきましたが、国連からの指導もあり、少しずつ家庭養護を増やす流れになってきました。
2017年には国の養育ビジョンとして里親委託率5割を目標に掲げ、2019年現在では過去1割だった里親委託率が2割まで上昇しています。各自治体で社会的養護の体制を整える動きが広がる中、即急に対応するべき課題の一つが里親支援です。里親家庭では、保育士や心理職など専門職がそろう児童養護施設とは違い、すべての負担が里親自身にかかります。そのため委託期間満了までにリタイアしてしまうケースも少なくないのです。里親たちが相談しやすい環境づくりや里子たちが差別を受けない社会づくりは、今後の重要な課題となっています。
ネグレクト(育児放棄)などの虐待を受けてきた子どもの多くは、基本的な生活習慣を知りません。また、人を頼る経験が乏しいため、人間関係の築き方がわからない子もたくさんいます。そんな子どもたちに、当たり前の生活を経験してもらうことが社会的養護の重要な役割。安心できる暮らしや健全な人間関係の形成を通して、子どもが自分の将来に希望を持てるよう支援を行うことが大切なのです。
本学では、制度や施設などの学びはもちろん、社会的養護が必要な子どもの実態を理解するため、里親家庭や施設で育った人を招いて実体験を語ってもらっています。特に学生と同年代の方から多く話を聞くことで、学生がより身近な話として感じられるよう取り組んでいます。また、児童養護施設などで実習を行い、現場職員の役割や子どもにとっての適切な養育環境の大切さを学びます。
今の日本は、社会的養護のもとで育った子どもにとって厳しい世の中です。例えば保証人がいないために「奨学金を利用できない」「住む家を借りられない」と、生活するうえでの選択肢が限定される子どもは大勢います。この問題の解決には子ども家庭福祉の現場だけでなく、地域や企業、社会全体が社会的養護への理解を深め、様々な角度から支援を行うことが必要です。このような複雑な社会課題に取り組んだ本学の学生は、一般企業や組織に属しても、その主体性や多角的な思考を活かし、様々な形で社会に改革をもたらすことができるのではないでしょうか。
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