宮島・あなご、三陸・うに 旅の達人おすすめ駅弁ランキング
秋の行楽シーズン、鉄道旅行の楽しみの一つが駅弁だ。鉄道や駅弁の専門家におすすめの駅弁を選んでもらった。
<西日本>
日本三景の一つ、安芸の宮島を望む宮島口駅の名物駅弁。1901年(明治34年)の創業以来、変わらぬ味で鉄道客に親しまれている。アナゴのだし汁で炊いたご飯の上に、100年以上継ぎ足し続けるタレに漬けて焼いたアナゴがたっぷりとのる。
近年は瀬戸内海産アナゴの漁獲量が落ちる中、伝統の味を守るため、国内外の産地を飛び回り、良質のアナゴを確保している。
「アナゴの焼き具合やたれのうまみ、ご飯にたれが染み込む具合など、ほかではまねができない弁当」(小林しのぶさん)、「数あるアナゴ弁当の中の横綱」(櫻井寛さん)、「レトロな掛け紙も渋くていい味をだしている」(上杉剛嗣さん)
(1)1470円(2)うえの(3)取り寄せ不可。広島三越でも購入できる
ガネと呼ぶサツマイモ入りのかき揚げやタケノコ、シイタケなど地元食材をふんだんに使った素朴で温かみのある弁当。特急「はやとの風」の乗客向けの販売で、事前に引換券を購入して車内で受け取る。土日祝日のみ嘉例川駅でも販売。「文化財にも登録された嘉例川駅の無人駅の風情とともに味わいたい」(矢口正子さん)
(1)1050円(2)森の弁当やまだ屋(3)取り寄せ不可
西日本で「かしわ」と呼ぶ鶏肉は、主に北部九州で郷土料理によく使われる。細かく刻んだ甘辛い鶏肉と錦糸卵、ノリの3色のコントラストが印象的な弁当。折尾駅の名物だった、ホームで「べんとー」と声を張り上げる駅弁の立ち売りは昨年に中止。鉄道ファンからは惜しむ声が上がっている。「変わらぬ味で愛され続けている名物弁当」(大庭幸雄さん)
(1)750円(2)東筑軒(3)博多駅などでも販売
駅弁として全国的な知名度がある富山の郷土料理。身が締まり、脂がのったマスを使い、独自の合わせ酢が上品な風味を引き出している。すしを包むササの香りもさわやか。「2段重ねの特盛りタイプもあり、たっぷり食べられるのがうれしい」(福岡健一さん)
(1)1300円(2)源(3)取り寄せ可(電話076・429・3100)、東京駅や大阪駅などでも販売
宮島の名産品のしゃもじをかたどったユニークな弁当箱。中身は煮カキにフライ、ユズ味噌あえなど、広島産カキをたっぷり味わえる。9月末~3月の限定販売。「東北や北海道のカキの駅弁より薄味で、西の味付け。ご飯もカキのうまみが染み、あっさりしている」(塩入志津子さん)。
(1)1050円(2)広島駅弁当(3)取り寄せ不可
焼きアユのだし汁で炊いたご飯にアユの甘露煮がのる。(1)1100円(2)みなみの風(3)一部地域除き取り寄せ可(電話0965・39・5150)
たこつぼ風容器に県産タコやアナゴが入る。(1)980円(2)淡路屋(3)東京駅などでも販売。一部地域除き取り寄せ可(電話078・431・1682)
秋は栗、冬は黒豆と季節ごとに具材を変えるおこわ弁当。かも肉もおいしい。(1)1100円(2)井筒屋(3)日曜のみ京都駅でも販売
佐賀牛をじっくり煮込んだカレー弁当。容器は有田焼。(1)1500円(2)創ギャラリーおおた(3)取り寄せ可(電話0955・42・4275)
土佐名物のカツオのたたきが入った弁当。鮮度を保つため保冷剤を付けている。(1)1050円(2)安藤商店(3)取り寄せ不可
<東日本>
三陸鉄道終着駅の久慈駅でしか買えないことから鉄道ファンからは「幻の駅弁」と呼ばれる。ウニの旬の4~10月限定で1日20食だけ製造しており、駅弁を目当てにわざわざ遠方から久慈駅を訪れる人も多い。弁当一つに5、6個のウニを使っており、ウニの汁で炊いたご飯と合わせてウニのうまみを堪能できる。
弁当を作るのは駅構内の食堂を切り盛りする夫婦。東日本大震災の直後は休業していたが「お母さんのうに弁当が食べたい」という励ましの声が全国から寄せられ、翌月には販売を再開した。11~3月でも事前に電話で注文すれば購入可能。「磯の香りと風味豊かなウニが絶品」(矢野直美さん)、「三陸鉄道の駅舎で食べると、おいしさが一層引き立つ」(JTB鉄旅ガールズ)
(1)1360円(2)三陸リアス亭(3)取り寄せ不可(11~3月の現地購入の予約電話は電話0194・52・7310)
ご飯は山形県産米「どまんなか」。その上に特製タレで味付けした国産和牛のそぼろと牛肉煮がのる。冷めてもおいしい駅弁を目指し、丁寧に肉の下処理をして脂がベトベトしないようにした。弁当箱は電車の中で4人で向かい合っても食べやすいコンパクトな大きさ。「牛肉を素材にした駅弁では一番おいしい」(南正時さん)
(1)1100円(2)新杵屋(3)取り寄せ不可。仙台駅や東京駅などでも販売
駅の目の前に広がる厚岸(あっけし)湖は古くからカキの産地として知られる。厚岸など北海道産のカキの煮汁で炊いたご飯は濃いめの味付けで、カキの風味がしっかりと染み込む。大ぶりのカキに加え、アサリやツブ貝などの具材は貝尽くし。「鈍行列車の中、雄大な自然を眺めながらカキにかぶりつきたい」(土屋武之さん)
(1)980円(2)氏家待合所(3)取り寄せ可(電話0153・52・3270)、東京駅などでも販売
鶏ガラスープで炊く「あきたこまち」と柔らかな鶏の相性がよい。60年以上の歴史があり、甘みを抑えるなど時代に合わせて味付けを変えている。夏はあっさり、冬は濃いめと季節ごとに微妙な調製も。「鶏のうまみが染み込んだご飯をおなかいっぱい食べたくなる」(土屋さん)
(1)850円(2)花善(3)取り寄せ不可。仙台駅などでも購入可能
キラキラと光るアジの切り身が食欲をそそる。一つの弁当に新鮮な近海産のアジを約2匹使い、小骨はピンセットで丁寧に抜き取っている。しょうゆやワサビも地元産の物を使用。冬場はレモンの代わりにユズが添えられる。「軽く酢でしめられたアジは生の刺し身そのもの」(上杉剛嗣さん)
(1)1100円(2)舞寿し(3)取り寄せ不可
益子焼の土瓶を使った名物釜飯。鶏肉やたけのこなど具材もたっぷり。(1)1000円(2)おぎのや(3)取り寄せ不可
名物のシウマイなど具材が豊富。(1)750円(2)崎陽軒(3)東京駅などでも販売
棒ダラの甘露煮、焼きタラコなどタラ尽くしの弁当。(1)1100円(2)ホテルハイマート(3)取り寄せ不可、東京駅などでも販売
ホッキ貝の炊き込みご飯のおにぎりにスモークチーズなどが付く。(1)980円(2)母恋めし本舗(3)取り寄せ可(電話0143・27・2777)
軽く蒸したウナギを赤ワインに漬け、タレで焼き上げた。身が柔らか。(1)2100円(2)自笑亭(3)取り寄せ不可。掛川駅でも販売
旅の味 数千種類
駅弁はいつどこで生まれたのか。諸説がある中、有名なのが1885年(明治18年)の宇都宮駅説だ。日本鉄道宇都宮駅開業に合わせ、近くの旅館が握り飯2個にたくあんを添え、5銭で売り出したのが始まりという。ただ、より古い梅田駅(現大阪駅)説や神戸駅説などもあり、はっきりとしない。
駅弁は全国に数千の商品があるといわれる。日本鉄道構内営業中央会に加盟する業者の商品には共通の駅弁マークが貼られているが、それ以外にも数多くの商品がある。今回のランキングでは、駅や車内で売られている特徴的な弁当を広く駅弁として扱った。
遠くの駅まで買いに行けないという人には、百貨店などが開催する駅弁大会がおすすめだ。普段は現地でしか買えない駅弁もそろう。特に京王百貨店新宿店(東京都新宿区)と阪神百貨店梅田本店(大阪市北区)の駅弁大会は種類が豊富で、楽しみにしているファンも多い。
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表の見方 数字は選者の評価を点数化(1)税込み価格(2)製造元(3)取り寄せの有無や販売場所。
調査の方法 全国の駅弁の中から専門家の推薦、駅弁関連の書籍、駅弁を特集するサイトなどを参考にプラス1編集部が約180商品のリストを作成。リストを中心に専門家にお薦めの駅弁を選んでもらった。(選者は次の通り、敬称略)
▽上杉剛嗣(ウェブサイト「駅弁の小窓」運営)▽大庭幸雄(鉄道友の会事務局)▽小林しのぶ(旅行ジャーナリスト)▽櫻井寛(フォトジャーナリスト)▽JTB鉄旅ガールズ(鉄道好き女子グループ)▽塩入志津子(駅弁研究家)▽土屋武之(鉄道ライター)▽福岡健一(ウェブサイト「駅弁資料館」運営)▽南正時(鉄道写真家)▽矢口正子(「旅の手帖」編集長)▽矢野直美(フォトライター)
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