ジャパン ベーカリー マーケティング(横浜市)社長でベーカリープロデューサーの岸本拓也氏に、ネーミングの極意について聞いた。店舗の立地や商圏特性からコンセプトやターゲットを明確にして、ネーミングとして分かりやすく表現。「高級食パン」分野でヒットを飛ばす。

岸本拓也(きしもとたくや)氏
ジャパン ベーカリー マーケティング社長ベーカリープロデューサー
2019年に13年目を迎える「TOTSZEN BAKER’S KITCHEN」(横浜市)オーナーを務めながら、13年より異業種からのベーカリーに進出企業をプロデュースしている(写真/丸毛 透)

 「高級食パン」分野で、2018年からユニークなネーミングの店舗が相次いでいる。例えばオーネスティグループが東京・清瀬などに出店している「考えた人すごいわ」や、CLASTYが神奈川県相模原市などで運営する「午後の食パン これ半端ないって!」、アイラスグループによる東京・中野坂上の「うん間違いないっ!」などだ。別々の企業が経営する店舗だが、実は共通の「仕掛け人」がいた。それがジャパン ベーカリー マーケティング社長でベーカリープロデューサーの岸本拓也氏だ。どこも行列ができるほどの人気店舗に育った背景には、今までの食パンとは異なる味や柔らかさだけでなく、ネーミングのインパクトもある。どのように生み出しているのかを聞いた。

2018年6月30日に「考えた人すごいわ」の清瀬店がオープンして以来、いまだに行列が絶えないようです。こうしたネーミングを、どのように考えたのでしょうか。

岸本拓也氏(以下、岸本氏) 私はネーミングを専門にしているのではなく、ベーカリーの店舗運営をコンサルティングするのが本業です。だから「考えた人すごいわ」のときも、まずは出店しようとする立地や商圏特性の分析から始めています。オーネスティグループとはコッペパン専門店を一緒に手掛けましたので、今回も当初はコッペパンの店舗を想定してさまざまな物件を探しました。すると清瀬駅前に家賃が安く、駅のホームからも見える、ちょうどいい物件がありました。ここを生かせないか、と考えたのが始まりです。

 ただ、清瀬市という商圏を分析すると高齢者が多いため、コッペパンよりも日常的な食パンのほうが適していると感じました。そこで、ちょうど私が開発中だった高級食パンを扱う店舗にしたらどうか、と提案しました。しかし今までにない味や柔らかさを持った商品を高齢者に理解してもらうには、どうすればいいか。「高級食パンだから洋風のおしゃれなネーミングにすべきでは」といった考え方もあるかもしれませんが、それではうまく伝わらないのでは、と思いました。

 一方で清瀬駅前にはさまざまな店舗や看板が乱立していました。文字があふれて情報量が多いため、普通のネーミングでは周囲に沈んで目立たない。だから文字数は少なくし、むしろ空間の余白を生かそうとしたのです。

 高齢者でも商品の特徴を簡単に理解でき、しかも文字数が少ないネーミングとは何か。5文字くらいでも十分だと思っています。そこで出てきたのが、今回の商品を開発したときの私の実感でもあった「考えた人すごいわ」でした。店舗の看板を白く塗って、黒い文字で大きく「考えた人すごいわ」としただけ。「高級食パン」とは入れていません。食パンは主にリピートのお客さまが購入する商品なので、あえて書かなくても、一度購入してもらえば理解できるからです。

 看板には「考える」イメージから、ギリシャの哲学者が思案しているイラストも描いて特徴づけました。キャラクターを入れると一気に親密感が増すからです。イラストも当社で手掛けています。

2018年6月30日に開店した東京・清瀬の「考えた人すごいわ」は、今でも行列が絶えない人気店だ。19年8月1日には仙台にもオープンし、今後は広島での出店も予定
2018年6月30日に開店した東京・清瀬の「考えた人すごいわ」は、今でも行列が絶えない人気店だ。19年8月1日には仙台にもオープンし、今後は広島での出店も予定

「考えた人すごいわ」の他に、どんな候補があったのですか。

岸本氏 「だがうまい」というネーミングも考えました(笑)。他には「製ぱん革命」「焼き方のポイント」「満を持して」などもありましたが、やはり「考えた人すごいわ」のほうがインパクトは強いと感じました。クライアントに「考えた人すごいわ」を提案すると、少しびっくりしていたようでしたが、物件を確認して立地や商圏の特性からコンセプトとターゲットを考え、そのうえで理解しやすいネーミングにしているのですから、私には自信がありました。

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