隣の人も自分と同じ…ではまるワナ 組織の常識の誤解第37回 フォールス・コンセンサス効果

まさか、こんなことになるなんて……

サラリーマン時代に、重役の参謀スタッフを務めていたときの失敗談です。ある日、その重役氏から「役員会への提案資料をつくってくれ」と頼まれました。

そこで、彼の期待に応えようと、自分でも驚くくらい見事なパワーポイントの資料をつくりました。インパクトを出すために余計な説明は極力省き、ポイントを際立たせ、図解をふんだんに入れ、クールなデザインで……。持てる技術をすべて注ぎ込んだのです。

ところが、自信満々に資料を持っていったところ、意外な答えが返ってきました。「悪いけど、説明しなくても読めば分かるよう、文章で書き直してくれないか。多少長くなってもいいから」と言われたのです。今でも膝から力が抜けていく感覚をよく覚えています。

こんな失敗談もあります。部門横断型の会議で一つの提案を検討することになり、私もある部門の代表として審議に加わりました。事前に資料を見たところ、ロジックが通らない手前勝手ないい加減な提案で、こんなものが通るくらいなら会社は終わりだ、と思うものでした。

「当然、みんな反対だろう」「誰が口火を切るのかな」と静観していたところ、誰も何も言いだしません。「あれ?」と思っているうちに、「特にご意見がなければ、この件は……」とアッサリ通ってしまいました。

事前に各部門に根回しをされていて、私は蚊帳の外だったわけです。しかも、他にも蚊帳の外の人がおり、私と同様「通るはずがない」と思って様子見をしていたそうです。やられた……。

みんなも自分と同じに違いない

私たちには、「他の人も自分と同じ考えである」と見なす傾向があります。この効果を、さまざまな実験で明らかにした心理学者L・ロスは「フォールス・コンセンサス」(偽の合意形成)と名づけました。思い込みによって「みんなが合意してくれている」と誤認してしまうことからこう呼ばれています。

残念ながら、この効果が生まれるメカニズムは複雑であり、理由ははっきりしていません。自分が考えたり、やったりしていることは、自分にとってはリーズナブルでわかりやすいものです。当然、他者もそう考えるはずだと、そのまま他者にも投影してしまう、というのがよくある説明の一つです。

最も参照しやすい自分を基準にして、他者を判断してしまうわけです。「利用可能性バイアス」と呼ばれる思考の歪みです。

くわえて、多数派と一緒だと安心する、という面も見逃せません。確かめたわけでもないのに、「みんなと一緒だからこれでいい」「みんながすることをすれば間違いない」と思って、安心しているのです。