厳しい指導で目標達成? 部下が育たない上司の勘違い第36回 偶然性バイアス

なぜ、今の会社で働いているのか?

「なぜ、弊社を志望されるのですか?」。就職や転職で必ず聞かれる質問です。どんな理由を挙げたか、覚えていない人が大半だと思いますが、今振り返ってみていかがでしょうか。皆さんは、なぜ今の企業や団体で働いているのか、わかりやすく説明できますか。

私はファシリテーターとしてその普及に努めていますが、講演後の質疑応答や雑誌などのインタビューで一番よく聞かれる質問も同じです。「なぜ、ファシリテーターを志したのか?」というものです。ひょっとして、皆さんも答えを知りたいですか。

この質問ほど答えるのが難しいものはありません。自らの選択もありますが、いろんな人との出会いがあり、さまざまな偶然が重なりあい、結果的に今の仕事に就いた、というしかないからです。皆さんだって、明確な理由を挙げられる人は多くないはずです。

もちろん、そんな答えでは誰も許してくれません。人は分かりやすいストーリーを求めます。「そうはいっても何かキッカケくらいは?」と突っ込まれるのが落ちです。仕方がないので5種類くらいの物語を用意しておいて、時と場合によって使い分けるようにしています。

一番ウケがよいのが「阪神淡路大震災でがれきと化した故郷・神戸の街を見て、人と人をつなぐことを仕事にしたいと思った」という感動のストーリーです。これを話せば、たいていは「なるほど、そうだったんですね」と納得してくれます。まったくの嘘ではありませんが……。

それでごまかされない相手には、仕方がないので、転機となったいくつかの出来事を紹介します(詳しくは中野民夫・堀公俊『対話のチカラ』をご参照ください)。偶然が重なりあっただけの話なのに、聞いている方が今に至る一本の道を勝手につくりだしてくれます。後で記事になったものを読むと、当人が「そうだったのか」と感心させられるほどの出来栄えで。

厳しく指導すれば成績が上がる

私たちは、偶然に起こった出来事に因果関係や法則性を見いだしてしまう性質があります。これを「偶然性バイアス」と呼びます。もう一つ分かりやすい例を紹介しましょう。

先月の販売目標を達成できなかった部下を、見るに見かねた上司が厳しく叱責しました。すると、翌月には、無事目標を達成することができました。それを見た上司は、「やはり部下を甘やしてはいけない」と思い、他の部下にも厳しく指導するようになりました。

一見すると、厳しい指導が原因で、目標達成が結果だと思いがちです。そうかもしれませんが、この一例だけで判断するのは早計です。偶然にそうなった可能性があるからです。

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