ひらめきブックレビュー

セクハラを「客観評価」で防ぐ 米国のSSMW法とは 『ハラスメントの境界線』

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近ごろのビジネスパーソンにとって、大きな関心事のひとつが「ハラスメント」ではないだろうか。どれだけ優秀な人材であっても、ひとたびハラスメントを指摘されればキャリアは崩壊する。2018年に、財務省事務次官が女性記者へのセクシュアルハラスメント(セクハラ)で辞任したケースは記憶に新しいだろう。

19年5月には、パワーハラスメント(パワハラ)の防止措置が企業に義務付けられる法が成立した。こうしたハラスメントへの意識が高まる一方で、「ハラスメントになると思うと怖くて会話ができない」「不用意な一言でクビになるのではないか」など戦々恐々としている人も少なくないだろう。

「何がアウトかわからない」。そう考える人にヒントを提供しているのが本書『ハラスメントの境界線』。ハラスメントに関する国内外の実態調査を踏まえながら、ハラスメント対応や認識についての最新事情を解説。セクハラに対する男女の感じ方の違い、パワハラが生まれる背景などを分析しつつ、「誰もが安心して働ける」職場環境への改革を唱えている。

著者の白河桃子氏は、ジャーナリスト、作家。「働き方改革実現会議」の一員としても活躍中。

■「きょうの服、ステキだね」の許容範囲とは

ハラスメントにありがちなのが加害者側の「……のつもりだった」という認識だ。たとえ悪意がなかったとしても、「被害者がどんな被害を受けたのか」によってハラスメントであるかどうかが認定されるのが国際スタンダード。本書では、「個人の感じ方」という主観から脱し、客観的にハラスメントかどうかを評価する取り組みが紹介されている。

例えばセクハラにおいては、「SSMW」(Spectrum of Sexual Misconduct at Work)というフレームワークがある。これは職務における性的に不適格な態度の評価法である。南カリフォルニア大学マーシャル・スクール・オブ・ビジネスの名誉教授である、キャスリーン・ケリー・リアドン氏が開発したものだ。

このフレームワークでは、(1)概して侮辱的ではない(2)気まずくさせる/軽度に侮辱的(3)侮辱的(4)極めて侮辱的(5)明らかなセクシュアル・ミスコンダクト(6)重大なセクシュアル・ミスコンダクトの6段階が設定されており、言動がどのカテゴリーに該当するかを、企業や働く人同士が話し合う。

「きょうの服、ステキだね」は一見(1)の言動のようだが、しつこく繰り返されると、次の(2)の「軽度に侮辱的」だと感じるようになる。またセクハラの被害者は女性だけでない。「男のくせに育児休暇をとるなんて」などといった発言も軽度に侮辱的な発言にあたる可能性がある。こうしたツールを使って冷静に対話することで、「ハラスメントの境界線」が浮かびあがってくるのだ。

著者は、ハラスメントは「人権侵害」だという。働く人ひとりひとりを大切にする職場や組織づくりのために、本書を参考にしてほしい。

今回の評者 = 倉澤順兵
情報工場エディター。大手製造業を対象とした勉強会のプロデューサーとして働く傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。東京都出身。早大卒。

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