資生堂は初のサブスクリプションスキンケアサービス「Optune」を本格的に開始した。IoTマシンとアプリで肌の状態や環境情報をリアルタイムで分析、その日に最適なスキンケア剤を配合し抽出する。ターゲットは30~40代女性。クラウドデータで商品を最適化し続ける画期的な取り組みだ。

2019年7月1日に本格スタートした資生堂のスキンケアサービスブランド「Optune」は、同社初のサブスクリプション(定額制)サービス。洗顔後のスキンケアを1台のマシンで完結する
2019年7月1日に本格スタートした資生堂のスキンケアサービスブランド「Optune」は、同社初のサブスクリプション(定額制)サービス。洗顔後のスキンケアを1台のマシンで完結する

8万通り以上のパーソナライズドスキンケアを提供

 2019年7月1日に本格スタートした「Optune(オプチューン)」は、「Optimize(最適化する)」と「Tune(調整する)」を足した造語。専用のスマホアプリ(iOS11以上)で肌を撮影し、リアルタイムの肌状態に気温や紫外線、花粉などの環境情報を加えてその日にぴったりのスキンケア情報を分析。その情報をスキンケア剤のカートリッジが入った専用IoTマシンに送信し、最適な量と組み合わせのスキンケア剤をマシンから抽出する。

 18年に開始したベータ版では1000通りだった抽出パターンは、スキンケア情報や環境情報、睡眠測定データなどを新たに加えることで8万通りにまで増え、最適なスキンケアを導き出す精度が向上した。使用状況はマシンとアプリからクラウドに蓄積され、残量が少なくなると使い切る前に次のカートリッジが自宅に自動配送される。追加注文などの手間は一切かからない。

 月額利用料は1万円(税別、配送料込み)で初回に専用マシンとカートリッジ5本が届き、次回以降は日々蓄積した肌状態のデータから最適なカートリッジを届けてくれる。登録者本人のみが利用できる契約で、複数人が使用するなどの不正対策として、毎月の機器の利用回数には上限を設ける。「通常利用していただく分には、一切問題ない」(資生堂)

 総務省が18年に発表した労働力調査によると、女性の就業率は約70%。さらに資生堂によると出産後の女性就職継続率は10年から14年で13ポイントもアップし、女性管理職率は00年から17年で3倍以上に。

 女性の社会での活躍が広がる一方、仕事と家庭との両立で多忙を極め、じっくり店頭で美容カウンセリングを受ける時間を捻出するのが難しくなってきた。ベータ版のロイヤルユーザーも、「フルタイム勤務をしながら2人の子育てをしてスキンケアまで手が回らない30代女性」「仕事が忙しいがパートナーとの時間を大切にしたい40代」というパターンが目立った。

 資生堂ジャパンの杉山繁和社長は、「充実しながらも忙しく時間が足りない女性たちにこそぴったりのサービス。洗顔後のスキンケアはこれ一つで完結でき、店頭に行く必要もない。一人ひとりのビューティニーズに最適なスキンケアを提供するパーソナライズドビューティでスキンケア生活に大きな革新をもたらす。パーソナライズサービスは次のステップへ移行する」と、自信をみせる。

「2019年から“Beauty Innovations For a Better World”をスローガンに掲げる」と資生堂ジャパンの杉山繁和社長
「2019年から“Beauty Innovations For a Better World”をスローガンに掲げる」と資生堂ジャパンの杉山繁和社長

顧客とのコミュニケーションもパーソナライズ

 新サービスでは、これまで再購入や購入品種を増やすために活用していたCRM(顧客関係管理)にも変化が起きるという。

 資生堂ジャパンOptuneブランドマネージャーの川崎道文氏は、「オプチューンでは顧客の使用状況も把握できる。これまで、購入と購入の間の情報を得られなかった。途中で使用をやめたり、フリマアプリで売っていたりしたかもしれない。今後は、使用頻度に合わせてコミュニケーションを工夫できるようになり、気持ちよく使い続けてもらうためのCRMが可能になる」と、顧客とのコミュニケーションもパーソナライズできる利点を強調した。

 肌状態や使用状況といったユーザーデータをリアルタイムで更新し続け、それに見合った商品をパーソナライズする仕組みは継続利用を前提としており、サブスクリプションと非常に相性のいいサービスだ。

 オプチューンでは、専用のスマートフォンアプリで肌を撮影して状態を分析。そこにリアルタイムの気温や湿度、紫外線などの環境情報を加え、その日に最適なスキンケア剤の組み合わせと分量を決定する。オプチューン専用マシンには5種類のスキンケア剤をセットし、専用アプリからの情報に基づいて配合されたスキンケア剤がマシンから出てくる。

専用IoTマシンとアプリを使い、測定(センシング)→分析(アナライズ)→今の肌に必要なケアを提供(パーソナライズ)する
専用IoTマシンとアプリを使い、測定(センシング)→分析(アナライズ)→今の肌に必要なケアを提供(パーソナライズ)する
スマホカメラで肌を連写して分析に最適な1枚を自動で選び、肌状態を分析
スマホカメラで肌を連写して分析に最適な1枚を自動で選び、肌状態を分析
きめ、水分、皮脂、毛穴の4つの指標でチャートにし、現在の肌の状態が一目で分かる。毎日撮影し続けることで時系列データ化できる
きめ、水分、皮脂、毛穴の4つの指標でチャートにし、現在の肌の状態が一目で分かる。毎日撮影し続けることで時系列データ化できる
専用マシンにセットするスキンケア剤のカートリッジは5本で1組。肌データが蓄積されていくにつれ、より肌に合ったスキンケア剤が届くようになる
専用マシンにセットするスキンケア剤のカートリッジは5本で1組。肌データが蓄積されていくにつれ、より肌に合ったスキンケア剤が届くようになる

無自覚の夜間覚醒が1週間後の肌に悪影響

 オプチューンの本格展開に向け、資生堂は生活リズムが肌に及ぼす影響にも着目。日本人の睡眠時間が国際的にも不足していることを受け、睡眠測定アプリ「熟睡アラーム」を開発するC2と共同で、睡眠計測による実態調査を実施した。

 その結果、働く女性の約8割が睡眠中に2回以上無自覚で覚醒することが分かった。資生堂はその状態を「無自覚夜ふかし」と名付け、無自覚夜ふかしが1週間後の肌の水分量の低下を引き起こすことを突き止めた。

 この調査結果を受けて、アップデート版のアプリには睡眠データを計測する機能を追加し、無自覚夜ふかしがあった日は、その1週間後のカートリッジ抽出量を調整できるようにした。

無自覚夜ふかしの回数が多くなるほど肌の状態も悪くなる
無自覚夜ふかしの回数が多くなるほど肌の状態も悪くなる
睡眠データでは覚醒した回数も分かる
睡眠データでは覚醒した回数も分かる

 オプチューンのベータ版を使用したモニターの声には「水分量が増えた」「毎日の肌の変化を意識するようになった」「スキンケア用品の数を減らせた」と好意的なものが多いという。川崎氏は「BaaS(Bearuty as a Service、ビューティー・アズ・ア・サービス)として新しい潮流を創出することを目指している。スキンケアにとどまらずファンデーションなど他のカテゴリーにも拡大できる」と、サービス拡大に意欲を見せた。

 肌の状態をリアルタイムで把握し、情報を蓄積し続けるのは店頭サービスでは難しい。8万パターンという膨大な抽出パターンに合わせた在庫をそろえることもできないだろう。基礎化粧品を見直す余裕のない忙しい女性たちに、最適なスキンケアを届け続けるオプチューンの試みはサブスクだからこそ成立すると言える。マシン側のアップデートも可能で、サービスの進化も期待できそうだ。

資生堂ジャパンの川崎氏は、「マシン側のアップデートも可能になった。継続的に進化させていく」と述べた
資生堂ジャパンの川崎氏は、「マシン側のアップデートも可能になった。継続的に進化させていく」と述べた

(写真/北川聖恵、写真提供/資生堂)

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