ひらめきブックレビュー

京大で「変人」は褒め言葉 ブッ飛びぶりを講座で発信 『京大変人講座』

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「変人」と聞くと少し近寄りがたいイメージがあるかもしれない。だが本書『京大変人講座』を読めば、きっときょうから変人を目指したくなることだろう。

「京大変人講座」とは、京都大学に連綿と受けつがれている「自由の学風」「変人のDNA」を世に広く知ってもらうため、京大の先生を中心に2017年に発足した公開講座。本書はそこでの講義の内容をまとめたものである。

■魅惑の「変人ナマコ理論」

山極寿一京都大学総長によると、変人とは、「常識を疑い、これまでとは違う発想ができる人」のことだ。ところが昨今はコンプライアンスやリスクマネジメントが声高に叫ばれ、社会全体の空気と軌を一にして、「変人でいること」が通用しなくなってきた。「京大変人講座」発起人である酒井敏教授は、そんな息苦しさに我慢しきれず、今の価値観に真っ向から異を唱えるために、変人講座を立ち上げたのだという。酒井教授は「世の中に変人が存在することが、なぜ大事なのか」を「変人ナマコ理論」を用いて説明している。

ある村に10人の農家がいたとする。彼らは自分たち10人分のお米を作っている。そのうち5人で頑張れば10人分のお米を作れるようになり、残りの5人もせっせと作れば合計20人分のお米ができる。しかし、10人しかいないのに20人分もあると市場は飽和し、お米がダブついてしまう。

では、どうするか。残りの5人は海に遊びに行って、ナマコでも採ってくればいい。そして、お米を作っている人に「これがあればごはんが進みますよ~」と言ってナマコを売るのだ。その収入の中から自分はお米を買って、初めて経済が回る。

つまり、世の中の発展のためには、全員がお米を作ってはいけないのだ。周囲と足並みをそろえずにナマコを「食べられる」と発見した変人たちが、既存の社会を変えられるのである。

■我々人類の祖先は「変な生き物」だった!?

そもそも、我々の祖先は「変」なのであった。そう語るのが人間・環境学研究科の小木曽哲教授だ。

いわく、地球が誕生した当初、酸素は無かった。ところがシアノバクテリア(ラン藻)が大繁殖し、光合成を始めたため、酸素が生み出された。もともと酸素が無かった世界に住む生物にとって、酸素の存在は晴天のへきれき、猛毒に等しいものだったという。結果、大体の「普通の生き物」は滅んでしまったが、中には酸素に"たまたま"適応できて生き残った「変な生き物」もいた。そう、我々人類の祖先は毒をおいしい、と思う変な生き物だったのだ。

本書は他にも、経営、法哲学、社会デザインなどの見地からユニークな講義を繰り広げている。共通して伝わるのは「地に足をつけているだけではダメ」というメッセージ。地に足がついている人は、せちがらい世の中に対して「変だよなあ」と頭で疑っても、結局行動には出られない。その点、実際に行動に出て新しいことを開拓していけるのが変人なのである。

京都大学では「変人」こそがホメ言葉。変人こそ、未来の地球の主役なのだ!

今回の評者=山田周平
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディティング・チームの一員。埼玉県出身。早大卒。

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