ひらめきブックレビュー

拡大する「エモ消費」 お一人さまが日本経済に活力 『ソロエコノミーの襲来』

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最近、コンビニの陳列棚にサバの味噌煮やハンバーグなど主菜1食分のレトルトパックが、たくさん並ぶようになった。値段はといえば、とりたてて安いわけではない。子育て世帯ならば、家族全員分を買うと割高なので、食指が動かないかもしれない。だが、独身一人暮らしならどうだろう。食生活が充実するので、大助かりのはずだ。

気がつけば、コンビニに限らず、1人向けの商品が増えている。消費者に単身者が多くなっているのは、容易に想像できる。

実際、日本では未婚者や離婚、また、あえて「非婚」を選ぶ人が増えているようだ。2015年の国勢調査によると、すでに独身者が人口の4割以上に達し、単身世帯の数が「夫婦と子ども」や「夫婦のみ」の世帯を上回っている。

本書『ソロエコノミーの襲来』は、そんな今の日本は「ソロ社会化」していると指摘。その結果、家族世帯中心の消費構造から、個人を主体とする経済構造「ソロエコノミー」へのシフトが起きているという。さまざまなデータや事例を引きながら、ソロエコノミーを詳しく分析した。著者の荒川和久氏は独身生活者研究の第一人者としてメディアで活躍するほか、企業のマーケティング業務、アンテナショップやレストランの運営も手がけている。

■コミュニティーに「接続」する

本書によれば、ソロエコノミーの特徴の一つに「エモ消費」がある。「うれしい」「楽しい」といった感情(エモーション)を得るのを主目的とする消費だ。

著者は、AKB48などのアイドルグループのファンによるCDの消費を例に挙げる。握手会に参加、あるいは総選挙に投票しようと何枚もCDを購入する彼らの主目的は、「音楽」ではないだろう。かといって、握手や投票でもない。それらは目的ではなく手段なのだ。本当の目的は、アイドルを支える立場に自分を置き、精神的充足感を得ること。私は東日本大震災以来、なるべく福島県産の農産物を買うようにしているが、それもエモ消費なのだろう。

また、ソロ社会では、コミュニティーのあり方も変わる。かつての家族、地域、職場といったコミュニティーは固定的に「所属する」ものだった。それが「接続するコミュニティー」になる。つまり、流動的に多様なコミュニティーに"つながる"ことが主流になるというのだ。

個々の感情を動機として、たくさんの集団に関わり方を変えながらつながっていく。関わる集団が多様であるほど、一人ひとりの柔軟性や適応力が育っていく。そんな、これからの時代への希望を示す前向きな視点には、深くうなずけた。

新しいものの見方にも出合える本書。一人暮らしでない方にこそおすすめしたい。

今回の評者 = 阿蘇望
30年以上のキャリアを持つ編集者・ライター。8万人超のビジネスパーソンに気づきを与える書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディティング・チームの一員。奈良県出身。

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