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梶原しげるの「しゃべりテク」

あえて「尋ねない」心遣い 質問攻めはコミュ力と違う

2019/7/11

■いきなり訪れた、最後の瞬間

3時間ほどで帰宅すると、すでにルルは病院から自宅に戻り、居間に敷いた布団の上に、昼寝のような感じで横たわっていた。いつもと違うのは、白い花に囲まれていることぐらいだった。

妻はすでに落ち着きを取り戻しているように見えた。

「お昼前ごろ、体をガタガタ震わせ、苦しそうにしたから、慌ててルルを両手で抱っこして先生の所に駆けつけたの」

「うん、うん」

「家を出て3分もしないところでルルちゃんが私の腕の中で『ガクン』と落ちる感じがあったわね」

「んーん、そうかあ……」

■無用の「問い」を飲み込む思いやり

「『先生の所までもう少し、頑張ろうね!』。ルルに声をかけながら病院まであと少しのところで、毎朝散歩を一緒に楽しんだ『犬友』で、顔見知りだった『~ちゃんママ』の姿が見えて」(注:散歩仲間同士は互いを「犬の名前+ちゃん+ママ」と呼んでいた)

「ああ、あの穏やかなおばさまだよね」

「その時の私の形相を目の当たりにすれば、『どうしたんですか? 大丈夫ですか?』と問うほうが、むしろ普通だと思う。でもね、彼女は優しい目をして、いつも通り、『こんにちは』とだけ言って素早く病院のドアを開けてくれた。このさりげないやり取りが、あの時、すごく、ありがたかった」

私は妻の気持ちが理解できた。

「どうしたの? 何があったの? ルルちゃん大丈夫?」。もし、こんな感じで次々と問いを浴びせられ、その問いにいちいち答えていたら、目の前の悲しい現実がどんどん重みを増して、やがては受け止めきれなくなって、妻は冷静でいられなかったかもしれない。

過剰に取り乱さず、医師や看護士さんと話ができたのは、ママ友の気遣いのおかげだという妻はその時のママ友の「問わない配慮」に、「あの時は救われた」と今でも心から感謝している。

「問わない配慮」をありがたく感じる場面は確実にあると思う。

※「梶原しげるの「しゃべりテク」」は毎月第2、4木曜掲載です。次回は2019年7月25日の予定です。

梶原しげる
1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。

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