ひらめきブックレビュー

予想外にも動じない賢者になる 人生を導く52の金言 『Think clearly』

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あなたは今、フランクフルト発ニューヨーク行きの飛行機に乗っている。ここで問題。「飛行中、機体が予定されたルート上を飛んでいる」のは飛行時間全体の何割だろうか。

本書『Think clearly』によると、正解はなんと……ゼロパーセント。飛行機はきっちり計画通りに飛んでいるわけではない。補助翼という翼を絶えず動かし、予定ルートとのズレを修正しながら飛行しているのだという。このことから、本書はある気づきを導いている。物事を進めるときに大切なのは計画を立てることではなく、スタートしてからの修正技術の方ではないか、と。

私たちの人生、特にキャリア設計は飛行機の軌道と同じだ。はじめに目指すキャリアを到達するための計画を綿密に作ったとしても、その通りに進まないことの方がはるかに多いだろう。うまく軌道修正できる能力を持っていれば、人生はよりよくなるはずだ、と本書は説く。

■「能力の輪」をつくる

世の中の普遍的な現象をはじめ、心理学や行動経済学などの研究を紹介しながら、人生訓を抽出しているのが本書。「考えるより行動しよう」「戦略的に"頑固"になろう」など、わかりやすいフレーズで52の考え方のヒントを伝えている。ドイツでは25万部を超えたベストセラー。著者のロルフ・ドベリ氏はスイス在住の作家、実業家で、ビジネス書要約サービスの「getAbstract」の設立者。パイロットの資格も持っている。

52のヒントの一つに「能力の輪をつくる」というものがある。「能力の輪」とは世界的に著名な投資家ウォーレン・バフェットの言葉だ。「自分の得意分野」という意味で、バフェットは自分の能力の輪にとどまることを人生のモットーとしているそうだ。

この考え方に著者ももろ手を挙げ賛成し、「自分の向き不向きの境界をはっきりさせよう」と呼びかけている。いわく、自分の得意分野の中で仕事をすれば成果につながりやすく、金銭的・精神的に満たされやすい。また得意なことであれば時間も短縮できる。実際、能力の輪の中にいる優秀なプログラマーは、能力の輪の外側にいる平均的なプログラマーに比べて、1000倍も早いスピードで問題を解決することができるという。

能力の輪の中では判断もさほど間違わず、大きな失敗も避けられる。また、積極的なチャレンジにもつながりやすい。著者は、自分に足りない能力を補う努力をするよりも、自分の得意分野を伸ばすことに労力と時間をかけるほうが実りある人生になる、と強調している。能力の輪の考え方で成功した人物には、スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツなども挙げられるそうだ。

■道具箱を持てば自由度が高まる

本書が提案している52のコツは、人生を良くするための「鉄則」ではないことに注意を促しておきたい。唯一の原理や絶対的な解ではない、ということだ。著者は本書の内容を「道具箱」だと称している。つまり、問題に突き当たったとき状況に応じて持ち出すツール。道具だから組み合わせて応用してもいいし、もちろん使わなくてもいい。

複雑さの増す現代社会において、ただ1つの正解を求めることは難しい。だが、思考に風穴を開ける道具がたくさん手元にあったらどうだろうか。きっと人生の自由度が高まり、生きやすくなっていくに違いない。

今回の評者=安藤奈々
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。早大卒。

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