前回は、なぜシェアリングビジネスが定着しつつあるのか、情報通信技術やユーザーマインドの観点から理由を紹介した。今回は、生活にシェアリングが定着したことで、私たちの日々の行動がどのように変化しているのかについて、メルカリと行った共同研究の結果を踏まえて分析していく。

三菱総合研究所による、シェアリングの普及と人々の消費行動の変化に関する連載。同社とメルカリの共同研究で見えてきたこととは(写真/Shutterstock)
三菱総合研究所による、シェアリングの普及と人々の消費行動の変化に関する連載。同社とメルカリの共同研究で見えてきたこととは(写真/Shutterstock)

 モノのシェアリングプラットフォームであるフリマアプリが、中古品を安く購入できる節約手段の役割を担いつつある。では消費者は今後、新品を実店舗で購入しなくなっていくのだろうか。

 答えはノーだ。メルカリと共同でフリマアプリのユーザーについて調査・研究した結果からは、実はフリマアプリをよく利用する人は、新品を衝動買いしやすくなっている事実が浮かび上がった。フリマアプリの登場がもたらした、意外な現象だと言えよう。「風が吹けば桶(おけ)屋がもうかる」のごとく、シェアリングビジネスは思わぬ消費行動の変化や経済効果を生み出している。

データで分かる「桶屋がもうかる」現象

 シェアリングビジネスで「桶屋がもうかる」現象を詳しく見ていこう。まず「新品購入頻度の増加」である。フリマアプリで洋服や化粧品を扱うユーザーのうち、全体の15%程度はアプリ利用後に新品購入頻度が増加したと答えた。新品購入頻度が減少したと回答した人を上回ったのである。

フリマアプリで洋服や化粧品を扱うユーザーの新品購入頻度
フリマアプリで洋服や化粧品を扱うユーザーの新品購入頻度

 また、フリマアプリでは1次流通市場よりも安い価格でモノが手に入るにも関わらず、「新品購入時の高価格帯へのシフト」も起こっている。洋服のシェアリングを行うユーザーのうち、28%が高価格帯にシフト。化粧品についても、18%が高価格帯にシフトしていた。いずれも、低価格帯にシフトしたユーザーを上回る規模である。

フリマアプリで洋服や化粧品を扱うユーザーの新品購入価格帯
フリマアプリで洋服や化粧品を扱うユーザーの新品購入価格帯

 2つの現象は、どのようなカラクリで生じたのだろうか。鍵を握るのは、「売却意識の高まり」である。

 まず新品購入頻度が増加した要因としてアンケート調査対象者が挙げたのが、「フリマアプリでの売れ行きが良いから」という理由だ。それが、新品で購入する機会が増えることにどうつながるのかひもといてみよう。

アンケート結果で回答者が挙げた新品の購入頻度が増加した理由
アンケート結果で回答者が挙げた新品の購入頻度が増加した理由

 洋服や化粧品を購入検討する際、誰しも「使ってみて気に入らなければ、せっかく買ったものを捨てるか我慢して使わざるを得ない」というばくち的な気持ちから諦めることがあるだろう。シェアリングビジネスは、この要素を緩和させる役割を担っている。フリマアプリでの売れ行きが良ければ、将来簡単に売却できる見込みがあることを踏まえて買い物できるようになるからだ。

 購入して使い始めて、もし商品が気に入らなくても簡単に売れると購入時点で想起できれば、新品購入に対する心理的ハードルが下がる。シェアリングビジネスという購入と売却の両方が簡単にできるプラットフォームが普及したおかげで、消費者の意識が大きく変化したわけである。

 新品購入時に高価格帯へシフトした人について詳しく調べると、洋服については72%、化粧品については57%が将来売却することを意識していた事実も興味深い。例えば平均2万円のモノを買っていた人でも、将来1万円で売れる可能性があるモノなら3万円で買うようになる。シェアリングという手軽な売却手段を得た人々は、新品購入時に「購入価格-将来の売却価格」という計算式で実質的な出費を計算する考え方をするようになったとも言い換えられる。いくらで売れるかを意識して買い物するからこそ、高価格帯へのシフトが進んだと言える。新品購入金額の底上にシェアリングビジネスは大きく寄与しているのである。

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