ひらめきブックレビュー

ホットケーキの繁盛店に教わる 稼げるビジネスの本質 『「ホットケーキの神さまたち」に学ぶビジネスで成功する10のヒント』

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喫茶店のホットケーキを味以外の点から観察してみよう。厚さ、色、価格……繁盛店には、美味(おい)しさ以外に個性的な価値がある。本書『「ホットケーキの神さまたち」に学ぶビジネスで成功する10のヒント』は、株式会社ローランド・ベルガー日本法人会長である遠藤功氏が、31のホットケーキの名店を通じて、ビジネスの本質を紐解(ひもと)く一冊だ。

■ありふれたものを差異化するには

著者は、ホットケーキはブルー・オーシャンだと説く。ブルー・オーシャンとは差異化を追求し、競合相手のいない領域でビジネスをすること。ホットケーキは2枚で約600円と安価な割に作る手間がかかり、首都圏では手作りのホットケーキを出す個人経営の店は40店舗ほどしかない。ありふれた食べ物のように思えるが、実は参入者が少なく無競争に近い状態が保たれているのだ。

美味しさを追求し、オリジナルの造形美や安価な提供などの付加価値を生み出している繁盛店から学べることは多い。著者は競争戦略、現場力、マーケティング、経営理念という4つの視点でビジネスのヒントを読み解いている。

例えば、競争戦略の視点からは東京・神保町の「TAM TAM」を取り上げている。この店ではホットケーキにバニラアイスにリコッタチーズを加え石釜で焼き上げている。外はカリカリ、中はふわふわの食感だという。そこにシロップと生クリームを加えたその味は、唯一無二。まさしく「ホットケーキのイノベーション」というにふさわしく、シンプルでありふれたものにも、差異化は生み出せるのだ、と熱弁する。

他にも丸さと厚さにこだわり続けた名店もある。その造形美に価値を見いだした米国の家族は、来日の折、黒塗りのハイヤーで訪れるほどだという。

■「めちゃめちゃ」美味しいを生み出すための努力

現場力の視点では、差異化を図るには「めちゃめちゃ」美味しいを生み出すための試行錯誤も不可欠だ。先の造形美にこだわるお店は、理想の膨らみ、もっちり感、焼き色を求め、日ごとに変わる生地のコンディションを素材の一滴単位までこだわっている。本気で向き合い、心血を注げば「ホットケーキの神さまが舞い降りる」と著者は語る。

各店舗の記事は、店がまえやメニューの写真付きで詳しく味覚をガイドするとともに差異化戦略にも着目。サービスデー、セットメニューといった価格戦略の考え方も紹介するなど、本書自身がグルメガイド&ビジネス書という複数の価値を持っている。本書片手に各店で味と経営戦略を確かめれば、他業種への応用もイメージしやすくなるはずだ。

今回の評者=はらすぐる
情報工場エディター。地方大学の経営企画部門で事務職として働く傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディターとして活動。香川県出身。

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