これまで国内ではハイエンドモデルのみだったソニーモバイルコミュニケーションズのスマートフォン「Xperia」に、ついにミドルレンジモデル「Xperia Ace」が加わり、NTTドコモから発売される。au、ソフトバンクもミドルレンジモデルを拡充し、ケータイ業界は「完全分離プラン」時代に突入した。

 2019年5月16日に開かれたドコモの新商品発表会。吉澤和弘社長のプレゼンテーションで、端末紹介のトップバッターとなったのが、ソニーのXpreia Aceだった。端末価格は4万8600円(税込み。以下同)で、同じく夏モデルとして発売されるハイエンドモデル「Xperia 1」の半値以下だ。海外市場ではXperiaのミドルレンジモデルが存在していたものの、国内で発売されるのは初めてのことだ。

 今までの発表会では、高機能な「ハイスペックモデル」から紹介されるのが通例。今回、ミドルレンジモデルから紹介されたのは「(端末代金と通信料金が切り離された)分離プランでは、3万~4万円台で買えるミドルレンジの端末が特に重要になる」(吉澤社長)からに他ならない(関連記事「シャープ、ソニーで対照的なハイスペックスマホの売り込み方」)。

吉澤社長のプレゼンテーションではまずスタンダードモデルが紹介された
吉澤社長のプレゼンテーションではまずスタンダードモデルが紹介された

 iPhoneのライバルとして強いブランド力を誇ったXperiaだが、ここ数年はじりじりとシェアを落としてきた。変わってアンドロイドスマホ分野のシェアトップに躍り出たのがシャープ。「AQUOS」のブランドイメージを生かしたミドルレンジモデル「AQUOS sense」を2017年に発売し、累計販売台数が200万台を超える大ヒットとなった。ドコモの料金割引プログラム「docomo with」の対象機種になったことに加え、au、ソフトバンクで分離プランがスタートし、ミドルレンジモデルの割合が増えたためだ。

 ハイエンドモデルにこだわり、シェア低下を甘受してきたソニー。しかし6月からドコモも分離プラン「ギガホ」「ギガライト」に移行することになり、ついに売れ筋のミドルレンジ市場への参入を決断したわけだ。

Xperia Aceの実力は?

 では、そのXperia Aceの実力はどのようなものか。大きさは18年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」に近く、横幅は70ミリを切るコンパクトサイズ。約5型のフルHD+液晶を搭載する。搭載メモリーもXperia XZ2 Compactと同じだが、CPUはワンランク落ちるSnapdragon 630。背面カメラはシングルレンズだが、Xperia XZ2 Compactよりも明るさを改善しているという。総じて、1年前のフラッグシップモデルと遜色のない仕上がりといえる。Xperia XZ2 Compactが8万円近かったことを考えると、Xperia Aceは思い切った値付けだ。ドコモにとっても、完全分離プラン時代の切り札といえるだろう。

画面は5型でコンパクトなサイズ。デザインは歴代のXperiaを踏襲している
画面は5型でコンパクトなサイズ。デザインは歴代のXperiaを踏襲している
カメラはシングルレンズだが、昨年のハイエンドモデルより性能をアップ
カメラはシングルレンズだが、昨年のハイエンドモデルより性能をアップ

auではGalaxyのミドルレンジモデルが初登場

 ドコモに先駆けて行われたauの夏モデル発表会でも、4機種投入されたハイエンドモデルよりも、今回は2機種のみの投入となったミドルレンジモデルの紹介のほうに時間が割かれた。目玉は「Galaxy A30」(サムスン電子)だ。ドコモ向けには既にミドルレンジの「Galaxy Feel」が供給されていたものの、auとしては初のミドルレンジモデルとなる。端末価格は4万3200円ながら、約6.4型の有機ELディスプレー、ダブルレンズカメラなどハイエンドモデルに近い商品性。おサイフケータイや防水防じん性能など、日本市場向けのスペックもきちんと満たしている。

auではミドルレンジモデルが2機種追加された
auではミドルレンジモデルが2機種追加された
ノッチ(切り欠き)デザインなど最新のトレンドを取り入れているGalaxy A30
ノッチ(切り欠き)デザインなど最新のトレンドを取り入れているGalaxy A30

 ソフトバンクでは富士通コネクテッドテクノロジーズ製の「arrows U」が目新しい。同社製のスマホがソフトバンクに採用されるのは実に5年半ぶりのことという。CPUや搭載メモリーのスペックはそれほど高くはないものの、ノッチディスプレーやダブルレンズカメラなど今どきのトレンドをきちんと押さえている。価格はまだ公表されていないが、やはり3万~4万円台で購入できると見られる。

arrows Uは製品企画から生産までを国内で行っていることも売り
arrows Uは製品企画から生産までを国内で行っていることも売り

 完全分離プラン時代に注目されるもう一つのスマホが、米Googleが開発した「Pixel 3a/3a XL」だ。18年11月に発売された「Pixel 3/3 XL」の廉価版で、Pixel 3の販売価格が9万5000円なのに対し、Pixel 3aは4万8600円と約半額になっている(Google Play ストアでのSIMフリー版の価格)。Googleから直販されるSIMフリー版の他、ドコモとソフトバンクも取り扱う。

 違いはボディーがガラス製から樹脂製になったこと、CPUのスペックがワンランク落ちたことなど。ただGoogleのAI(人工知能)技術を使って写真のぼけ感を出したり暗所でもぶれを抑えたりする最大の特徴は踏襲している。処理を専用チップではなくソフトウエアで行うため、若干動作が遅いとされるが、使用上問題になるレベルとは感じなかった。グローバルモデルでありながらおサイフケータイ機能にも対応しており、日本市場でも受け入れられる可能性は高い。

Googleのオリジナル端末Pixel 3aはドコモとソフトバンクが取り扱う
Googleのオリジナル端末Pixel 3aはドコモとソフトバンクが取り扱う

 これまでのミドルスペックモデルは、端末のブランド力や機能面で、どこか妥協しなければならない部分があった。3キャリアが完全分離プランになったことに加えて、ブランド力の高いXperiaやGalaxyが参入したことで、ますます3万~4万円台のモデルが売れ筋となるのは必至だ。

NIKKEI STYLE

この記事をいいね!する