ひらめきブックレビュー

脳科学が説く幸福な子育ての鉄則 コントロール感とは 『セルフドリブン・チャイルド』

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新時代が幕を開けた。だがどんなに時代が変わろうと、いっこうに悩みの尽きない問題が「子育て」だ。子どもには良い人生を送ってほしいが、さてどうすればいいのか。良かれと思って言うことが子どもに伝わらなかったり、心配でつい過保護になってしまったり……子どもへの接し方に頭を抱える人も多いのではないだろうか。

親が陥りがちな子育ての迷宮に、明快な出口を用意しているのが本書『セルフドリブン・チャイルド』(依田卓巳訳)だ。著者は米国の臨床神経心理学者ウィリアム・スティクスラッド氏と、ティーンエージャーの指導に長年関わってきたネッド・ジョンソン氏。神経科学と発達心理学、それぞれの知見を踏まえながら「子育ての心構え」を説いている。著者らによると、親が伸ばすべきは子どもの「コントロール感」に尽きるという。

■コントロール感は、生きる力

コントロール感とは、「自分がまわりの世界に影響を及ぼせると感じること」だ。このコントロール感の欠如は人間にとって大きなストレスになる。無力感を覚え、イライラしたり、不安にさいなまれてしまう。反対に、「状況を自ら変えていける」というコントロール感を手にしているとストレス耐性が高く、幸福感を得やすいのだという。

コントロール感は生きる力につながる。それなのに、親はこれを伸ばす働きかけができていない、と本書は指摘している。例えば子どもに無理やり宿題をさせたり、危険な場所を走らせないようにしたり、服を選んでやったり。何気ないこうした行為は「必要なことをお前は分かっていないのだ」という無力感をもたらすメッセージとなってしまうのだ。

■「それは君が決めること」と心得よ

では、どうすればいいのか。本書の提案は「コンサルタントとしての親」だ。助言はするが変化は強要しない。子どもが親の理想通りに行動しないときは、手や口を出す前にまずはこう考えるといい。「それは君が決めること」だと。こうした立ち位置に親が腰を据えるところから、子どものコントロール感が育つ余地が生まれる。

もちろん、急にコンサルタント型になるのはたやすいことではない。本書にある具体的な行動例が良いヒントになるだろう。

例えば、幼児に対してはブロックで遊びたいか、絵を描きたいか、を選択させる。未就学児にはカレンダーを与え、イベントを書かせたり過ぎた日を線で消させる。日常のコントロール感につながるからだ。高校生にはどう接するか。彼らは過ちを起こしがちだ。だが過ちが起こったときには責めずに、その過程を見直す手伝いをするのが大切だ。「君はまちがいから学ぶことができる」というメッセージを親が発し続けるのである。

親にとってはなかなかハードな道かもしれない。だが、次の著者の言葉をたよりに、今日からまた子どもに向き合ってみよう。「子どもはやればできる、本当に」

今回の評者 = 安藤奈々
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。早大卒。

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