ひらめきブックレビュー

営業はストーリー仕立てで 「口説き方」の技術を学ぶ 『ゼロからつくる営業ストーリー』

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映画や小説、YouTubeの3分動画に至るまで、世の中はストーリー(物語)に満ちている。そして優れたストーリーには、人に強い印象と影響を与える力があるようだ。私が毎晩、小さな息子に読み聞かせをするときなどにも、それを実感する。わが子が、以前に一度だけ聞いた冒険の物語を細部まで鮮明に覚えていたりするからだ。

ストーリーの持つ影響力は、ビジネスにも活用できる。営業やマーケティングをはじめ、プレゼンや社内コミュニケーションなどに、ストーリー仕立てにして物事を説明する「ストーリーテリング」は有効であり、その手法を説くビジネス書も多数出版されている。本書『ゼロからつくる営業ストーリー』(藤戸良憲訳)もその一つだが、すぐにあらゆる現場で使えるよう、きわめて実践的に書かれているのが特長だ。

P&Gに20年間勤め、現在は多数の企業でストーリーテリングの訓練を手がける著者のポール・スミス氏は、本書を著すにあたり、実際に営業で語られている2000以上のストーリーを分析。また、50もの実際の企業の営業担当者へのインタビューを敢行している。

それらをもとにした豊富な事例とともにきめ細かなノウハウが網羅された本書は、ストーリーテリング指南書の"決定版"ともいえる。

■「ひどい目にあった」経験談で顧客の問題意識を引き出す

本書で紹介されているストーリーの一つを、細部をはしょって紹介しよう。オンラインセキュリティーを専門とする会社の営業担当重役であるケビン・モールトン氏が、見込み客の銀行に自社のサービスを売り込む際に、自身の経験談としてストーリーを語っている。

「出張先のラスベガスで午前1時頃に財布が空であることに気づき、ATMで現金を引き出そうとしたのですが、拒否されました。それだけではありません。深夜のATM使用を不審に思った銀行担当者が、こともあろうに本人確認のために自宅に電話をかけたのです。時差もあり、午前4時にたたき起こされた妻はカンカンでした」

語った後にモールトン氏は見込み客の銀行に、同じように顧客の生活に波乱を起こす可能性があるならば自社のサービスで問題を解決できると伝える。それは、深夜のATM利用者の携帯電話に、その時にだけ使えるワンタイム・パスワードを送信するサービスだ。

本書には、上記のようなストーリーの構成方法や語り方だけでなく、会話の中で自然にストーリーを語り出すテクニックなど、かゆいところに手が届くきめ細かなノウハウが満載だ。さらに付録の「ストーリー構成のテンプレート」や「ストーリーの工程表」を使えば、ストーリーテリングの達人になるのに時間はかからないだろう。ぜひ活用していただきたい。

今回の評者=足達健
情報工場エディター。外資系のクラウドソフトウェア企業でITコンサルティングサービスに携わる傍ら、書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディターとして活躍。一橋大学社会学部卒。

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