5月24日、ANAはジャンボジェットを上回る超大型旅客機「エアバスA380」を成田-ホノルル線に投入する。いち早く機内を取材して見えてきたのは、エコノミークラスの座席数で他社を圧倒しつつ、上級クラスの上質化で単価アップを狙うANAの戦略だった。

 A380は機体の前方から後方まですべて2階建て構造。1階の客室は全席がエコノミークラスだ。一方2階は、前方からファーストクラス、ビジネスクラス、そしてプレミアムエコノミーと上級クラスの座席が並ぶ。

 “空飛ぶホテル”との異名も持つA380だが、1階のエコノミークラスを見る限り、現在ホノルル線に投入されているボーイングB787-9と大きな違いは感じない。確かに客室の横幅は広いが、横3+4+3の計10列配置で、座席幅が特段広いわけではない。既存機材の座席から変更されたのは、ヘッドレスト部に首をサポートするクッションが加わり、9インチだった液晶モニターが13.3インチに大型化された点など、一部にとどまる。

横10列でズラリと並ぶエコノミークラス
横10列でズラリと並ぶエコノミークラス

 客室後方の6列(60席分)は、レッグレストを跳ね上げると幅65センチのベッドのようになる「カウチシート」を国内航空会社で初採用。ただし、横になる場合は複数分の座席を抑えなければならず、追加料金がかかる。

横になれるカウチシート。男性の場合、4席分を使えばスペースに余裕があった
横になれるカウチシート。男性の場合、4席分を使えばスペースに余裕があった

ファーストクラスは割安感あり

 現在ホノルル線に就航しているB787の約2.6倍にあたる383席のエコノミークラス座席が並ぶ1階客室は、輸送力を重視した印象。これに対して2階は随分とゆったりとしている。最前方に8席用意されたファーストクラスは、ホノルル線では初の導入。ライバルの日本航空(JAL)でもファーストクラスの設定は年末年始やお盆などハイシーズンにとどまっており、富裕層の需要を掘り起こせるかが鍵となる。ローシーズンで往復35万円という価格設定は、ファーストクラスにしては割安だ。

引き戸を閉めると半個室になるファーストクラス。高級感では、シンガポール航空などが導入するダブルベッド仕様には及ばない
引き戸を閉めると半個室になるファーストクラス。高級感では、シンガポール航空などが導入するダブルベッド仕様には及ばない

 ビジネスクラスは56席。現行のB787と比べると約1.2倍(8席増)と微増にとどまる。フルフラットシートを互い違いに配置し、全席通路アクセス可能にしている点や、座席の仕様はB787と同様。ただし、中央列の一部座席(14席)は、間の仕切りを下げるとペアシートになる。新婚旅行などを意識した座席配列だ。

ビジネスクラスはペアシートを除けば既存の座席と大きくは変わらない
ビジネスクラスはペアシートを除けば既存の座席と大きくは変わらない

座席数が一番増えたプレミアムエコノミー

 ビジネスクラスと比べると、質・量ともに変化が大きいのが、プレミアムエコノミー。これまでは座席が広いエコノミークラスという位置づけで、機内食はエコノミークラスと同じだったが、ホノルル線に限り、他の路線では2500円の追加料金が必要となる特別メニューを標準で提供する。座席こそフルフラットにはならないものの、シートピッチは約97センチと広く、以前ならビジネスクラスと言われてもおかしくない仕様。携帯電話など小物の収容スペースが充実するなど、エコノミークラスとは明らかな違いがある。

シートピッチ、横幅ともにエコノミークラスとは差があるプレミアムエコノミー
シートピッチ、横幅ともにエコノミークラスとは差があるプレミアムエコノミー
エコノミークラスよりグレードアップした機内食が用意される
エコノミークラスよりグレードアップした機内食が用意される
充電中のスマホを入れられるホルダーなど小物入れが充実
充電中のスマホを入れられるホルダーなど小物入れが充実

 座席数はB787の21席から、約3.5倍の73席へと大幅増。もはやエコノミークラスの“おまけ”ではなくビジネスクラスに準ずる上級クラスに生まれ変わる。ANAでは、マイレージの上級会員に対し、搭乗当日にプレミアムエコノミーに空席があれば無償でアップグレードしていたが、9月30日をもって終了予定。これも、プレミアムエコノミーの位置づけの変化を象徴している。

プレミアムエコノミーの座席増が突出している
プレミアムエコノミーの座席増が突出している

1階席と2階席に歴然とした差

 機内には1階と2階をつなぐ階段が2カ所あるが、フライト中は原則として行き来できなくする予定。ホノルルのダニエル・K・イノウエ国際空港にはプレミアムエコノミー以上のクラスの搭乗客が利用できる「ANA Lounge」が新設され、ラウンジから2階客席へ直接搭乗ができる。つまり、エコノミークラスの客とは物理的に分離され、1階と2階との間には“越えられない壁”ができるわけだ。

1階と2階をつなぐ階段は、搭乗・降機時以外は原則として行き来できない
1階と2階をつなぐ階段は、搭乗・降機時以外は原則として行き来できない

 運賃は日々変動するため一例でしかないが、成田発10月7日・ホノルル発10月11日の組み合わせで検索してみたところ、エコノミークラスは往復9万4020円だった。同じ日程のJAL便は11万4420円だったので、低価格で攻めているといえる。これに対して、プレミアムエコノミーは14万4020円とエコノミーの約1.5倍の値付け。ちなみにビジネスクラスは21万9020円、ファーストクラスは36万9020円だった。安価なエコノミークラスの座席数でライバルJALを圧倒しつつ、プレミアムエコノミーの質を向上させて単価をしっかりと稼ぐ。そんなANAの戦略が透けて見える。

(写真/山本琢磨)

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