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知らないと大変!ビジネス法則

人の好意に報いたい 営業なら知るべき交渉戦術の肝 第25回 返報性の原理

2019/5/15

すると、前者(3年間が断られてから1日)のほうが、後者(最初から1日)よりも2.5倍も承諾する人が多くなりました。まさに返報性のなせる業です。

相手の依頼を断ることで、「申し訳ない」「悪いことをした」という気持ちが生まれます。そのため、ハードルの低い依頼を「せめて、これくらいなら」と受け入れてしまうのです。

返報性の原理には、いくつかの種類があることが分かっています。

1つ目は、好意を見せる相手に対して、こちらも好意を返そうとするものです。「好意の返報性」と呼びます。恩に必ず報いる、義理がたい人に強く見られる性質です。

それを逆手に取ったのが、冒頭の試食の話で、マーケティングではよく用いられる方法です。律義な人は、そこから抜け出すことは難しく、最初から「要らない」と試食を断るのが最善の策となります。

■わざとドアを閉めさせる交渉テクニック

これとは逆に、敵意には敵意で返したくなるのが、2つ目の「敵意の返報性」です。下手をすると敵意がどんどん増幅して破滅的な事態に陥ります。あまりビジネスでは使えない原理ですが、好意だけではなく敵意にも返報性があることは、頭の片隅に置いておきましょう。

3つ目が、ビジネスでうまく使いたい「譲歩の返報性」です。相手が譲ったら、こちらも譲らないといけないと思う気持ちです。

典型的なのが、先ほどのボランティアの依頼の話です。相手が要求のハードルを下げたら、こちらも下げないといけないと思うわけです。

この原理を活用したのが、交渉術でよく用いられる「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」(譲歩的要請法)です。顧客を訪問したセールスマンが、目の前でドアをバタンと閉められるところから、そう呼ばれています。

わざと交渉相手がのめない過大な要求をつきつけ、相手が断ったところで、本来のませたかった小さな要求を持ちだします。返報性の原理が働く上に、最初の要求がアンカー(第16回)となって、まんまと術中にはまってしまうわけです。

とはいえ、あまりあざとくやると、意図がバレた時に人間関係を損なってしまいます。使う相手と状況を間違えないようにしましょう。

■相手の腹を割るには、こちらが腹を割る

さらに覚えてほしいのが、4つ目の「自己開示の返報性」です。自己開示とは、ありのままの自分を相手に伝える行為です。たとえば、こんな経験はないでしょうか。

キャンプの夜、たき火を囲んでみんなで話をしています。誰かが「実は……」と普段言えなかった話をカミングアウトしました。それにつられた別の誰かが、今まで隠してきた秘密を告白します。そうやっていうち、どんどんみんながホンネを語り始め、最後にはとんでもない暴露話が飛び出して一同ビックリ。

相手が腹を割って話せば、こちらも腹を割らないと悪い気がします。逆に言えば、相手のホンネを引きだしたければ、まずこちらがホンネで語って見せることが大切になります。そうやって、自己開示の返報性をうまく使えば、相互理解を深めることができます。

ただし、これも使い方次第。嫌がる相手にこちらの裸を見せ、「私が脱いだのだからお前も脱げ」とやるのは本末転倒です。人によって、自己開示の許容範囲が異なることを忘れてはいけません。

ということで、今回は「返報性の原理」について解説をしました。最後に、土産物で試食をした後、どうやって何も買わずに逃げることができるか。私の戦法をご紹介しておきましょう。

「おいしい!」とベタ褒めした後、「他の商品も見た上で、後で来るから」と言って立ち去るのです。これなら負い目を感じることはありません。ぜひ、お試しあれ。

堀公俊
日本ファシリテーション協会フェロー。大阪大学大学院工学研究科修了。大手精密機器メーカーで商品開発や経営企画に従事。1995年からファシリテーション活動を展開。2003年に日本ファシリテーション協会を設立、研究会や講演活動を通じて普及・啓発に努める。著書に「ファシリテーション入門第2版」「会議を変えるワンフレーズ」など。

堀 公俊氏・組織コンサルタントが講師を務めるスキルアップ講座/日経ビジネススクール

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