ひらめきブックレビュー

ズバリ言わぬは上司の罪 シリコンバレーの部下掌握術 『GREAT BOSS(グレートボス)』

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組織で働く人間は、入りたての新人でもない限り、誰かに指示や指導をすることがあるはずだ。部署やチームの長、すなわち誰かの「上司」である立場の人も少なくないだろう。

上司が部下との関係で犯しがちな、こんなミスがある。転職してきたばかりの部下が、初めてプレゼン資料を作ってきた。本人は自信満々だが、残念ながらその資料は、誰が見てもお粗末な代物だった。ところが上司であるあなたは、思いとは裏腹に、こんな言葉をかけてしまう。「初めてにしては上出来だ」

どこがミスなのだろう。「はっきりダメだと言ったら、傷ついてやる気をなくしてしまうからいいのではないか」。そう思うかもしれない。けれども、ここは口調が多少キツくなったとしても、あえてはっきりと言わなくてはならない。そうしなければ、その部下が後に大失敗をした時に、きっとこう言われる。「どうしてあの時、言ってくれなかったんですか?」

本書『GREAT BOSS(グレートボス)』(関美和訳)にも、同様の著者の実体験が書かれている。上司として部下とのより良い関係を築き、部署やチームによる最大限のパフォーマンスをめざすための理論と実践を紹介する本書では、「徹底的なホンネ(Radical Candor)」という人間関係構築メソッドが詳しく紹介される。

著者のキム・スコット氏はジュース・ソフトウエアの共同創設者兼最高経営責任者(CEO)だったが、同社は破綻。その後グーグル、アップル大学教員を経て、キャンダー・インクを創設。現在は同社共同創設者兼CEOで、シリコンバレー企業などのアドバイザーを務めている。

■相手を心から気にかけつつ、ズバリと言う

徹底的なホンネは、著者がグーグルやアップルなどでの経験をもとに開発したメソッド。「言いにくいことをズバリと言う」のが最大の特長だ。

だが、ズバリと言うだけでは反感を買うかもしれない。著者は、それを「イヤミな攻撃」と名づける。徹底的なホンネにするには、もう一つ要素が必要なのだ。それは「(相手を)心から気にかける」。すなわち、キツい一言をズケズケと言っても部下から信頼されるには、同時に相手を心から気にかけていて、それが伝わる言葉を挟んだり、行動をしたりしなければならない。

相手に心から気にかけていることを伝えるのは、実はそれほど簡単ではない。本書で紹介される著者の実体験から、徹底的なホンネの「達人」たちの技をうかがい知ることができるだろう。実際に著者の上司だったシェリル・サンドバーグ氏や、グーグル共同創業者のラリー・ペイジ氏らのエピソードは興味深い。

個性的で頭のキレる人材がそろうシリコンバレーで組織をまとめる人たちが駆使する徹底的なホンネ。試してみない手はない。

今回の評者 = 吉川清史
 情報工場SERENDIP編集部チーフエディター。8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」の選書、コンテンツ制作・編集に携わる。大学受験雑誌・書籍の編集者、高等教育専門誌編集長などを経て2007年から現職。東京都出身。早大卒。

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