ライフコラム

梶原しげるの「しゃべりテク」

コメントで「思い」を連発 万能言葉が意味をぼやかす

2019/4/25

言葉選びが安直では、せっかくのメッセージも届きにくい。写真はイメージ =PIXTA

かつて某テレビ局が新作ドラマの完成発表記者会見を開いた際、記者からの質問に、テレビ業界では珍しい、まじめで律儀そうな担当者がこんなふうに答えていたのを思い出す。

担当「我々、作り手の思いがぎっしり詰まった作品になったと思います。その思いが視聴者の思いへと届き、より多くの方々の思いにつながればいいなあというのが、今一番の思いです」

かなり前の話だから、実際ここまで「思い」を連発したのかどうかは怪しいが、「『思い』って、ずいぶん使い勝手のいい言葉なんだなあ」と、今さらのように感心したのを思い出す。

今年は統一地方選挙の年だからか、そこらじゅうで「思い」という言葉が飛び交っている。「地元の思い」「改革の思い」「安心安全への思い」「日々の暮らしの思い」――。 「その『思い』って、具体的には何のこと?」と、候補者それぞれに直接聞いてみたいと思ってもみたが、実際にはボーッと新聞・テレビを見るばかりだった。

■「思い」の辞書定義はあまりにも幅広い

罪滅ぼしになればと、「思い」を辞書でチラッと見てみた(罪滅ぼしにまるでなっていないが)。最新版の『広辞苑』は「対象について心を働かせること」と、気持ちがいいほどザックリとした単純明快な説明だ。

「もの、ことに対して心が動けば、それが思いだ」ということだろうか。実際に多くの辞書が「思い」の言い換え例として、ポジティブからネガティブまでほぼ全ての「心の動き」に関する言葉をあてている。

「考え」「志」「願い」「望み」「期待」「欲望」「ねらい」「予想」「経験」「不安」「執念」「恨み」「嘆き」。どれもこれも「万能言葉」としての「思い」で代替OK?

「思い」がほぼ全ての心の動きを言い表せる「万能言葉」だというなら、わざわざ「志」や「願望」など、別の表現の選択に手間取って「えーと」と口ごもることもない。テンポのいい会話にはメリット大だ。しかし、それだけで構わないのか。

ライフコラム 新着記事

ALL CHANNEL