ひらめきブックレビュー

動画が変える世界 技術が支えるユーチューブの拡散力 『YouTubeの時代 動画は世界をどう変えるか』

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人気ドラマのテーマ曲に合わせて踊るダンス動画の投稿が社会現象となる。あるいは子供たちの「なりたい職業ランキング」の上位にユーチューバーがランクインする。日本でもYouTubeが注目を集めていることを示す事例は多い。こうした現象を理解しがたい、と感じる人もいるかもしれない。しかし、YouTubeの盛り上がりは、現代の新しい創造の自由が生み出した必然的な産物である――。そう分析するのが、本書『YouTubeの時代 動画は世界をどう変えるか』だ。著者のケヴィン・アロッカ氏は「世界で一番YouTubeを見ている」と称されるYouTube初のトレンドマネージャー。YouTubeを中心に、SNSを含む動画配信・拡散の影響力を読み解いている。

■ユーザーはただの観客ではなく"参加者"でもある

誰でも動画を投稿できて、誰もがそれを見ることができる場所があったらどうなるだろう? こんな単純な疑問から今日の私たちが知るYouTubeが生まれた。

当初は各ユーザーに対してYouTube側がランダムに動画を提供する形式となっており、どれを見るか選ぶことはできなかった。利用者数もほとんど伸びなかったそうだ。そこで設計者らは、「関連動画」機能を追加して視聴回数を増やす工夫をする。さらに、動画を投稿する目的が「友人や知人との共有」であることに気づくと、YouTubeの動画プレーヤーをユーザーが自身のサイトへ埋め込める機能を追加。フォロワーになった人に自分の動画を次から次へと見てもらうことが可能になった。こうした共有しやすいアレンジがYouTubeの人気に火をつけたのだという。

自分の好きな動画を選び、その動画に対してフォローやコメントができるようになると、動画の視聴は「受け身」の行動ではなくなる。さらに好きな動画を中心として、「共感する者同士」のつながりが生まれる。視聴者はただの観客ではなく、趣味嗜好を同じくするコミュニティーの一員、あるいは能動的な"参加者"となるのだ。

このことは同時に、動画を投稿する者、すなわちエンターテイナーにも影響を与えた。動画を見てくれるファン同士、あるいはファンとエンターテイナーのつながりを生み出せるかどうか。これが、現代のエンターテイナーに求められるスキルになったのだ。

■私たちは互いにつながることを求めている

例えば、2008年以降の公式ビデオの視聴回数が1000億回を超えているシンガーソングライターのケイティ・ペリーは、画面上に歌詞が流れるリリックビデオを活用した先駆者だ。誰よりも早く公式のリリックビデオを公開することで、ファンへ歌詞を覚えるよう促し、自身の音楽により参加しやすいようにしたのだ。

13歳の普通の女の子レベッカ・レニー・ブラックが公開した「フライデー」のミュージックビデオは、ネット上で過去最低の曲として話題となった。洗練されていないパフォーマンスとやぼったい歌詞。それがバイラル(ウイルスのように伝染する)現象を引き起こし、彼女は一躍時の人となった。「からかい」や「冷やかし」を含めてコンテンツを楽しむという状況が生み出されたのである。

YouTubeによる動画の視聴が一般的になると、私たち一人ひとりが「何か」や「誰か」の人気を高めることが可能になった。人々の価値観は様々で、一人ひとりの行為がもたらす影響は予測不能だ。「現代は表現というものが最も混乱した時代となっている」と著者は語る。

この10年間の動画を取り巻く状況を見ると、「共有」や「つながり」というキーワードの重みが増し続けているようだ。「何かにつながること」や「お互いにつながること」を私たちがいかに求めてきたか、ということを色濃く物語っているだろう。

今回の評者 = 平山真人
 情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディティング・チームの一員。鹿児島県出身。

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