ひらめきブックレビュー

シェアは働き方をも変える 家事や手仕事に新たな価値 『シェアライフ  新しい社会の新しい生き方 』

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最近耳にすることが多い「シェア」や「シェアリングエコノミー」という言葉。ウーバーやエアビーアンドビーなど、シェアサービスは世界的にも勢いを増している。だが、シェアがなぜこれほど注目されているのか。今さら聞けない人もいるだろう。

そんな人は本書『シェアライフ』を開いてみよう。ビジネストレンドとしてではなく思想としてシェアを掘り下げ、その本質を分かりやすく伝えている。本書によるとシェアとは他者とモノやスキルを"分かち合うこと"。シェアすることで生き方・働き方の選択肢が広がるとともに、人との「つながり」も手に入ると説く。

著者は内閣官房シェアリングエコノミー伝道師として多方面に活躍中。現在、約60人の"家族"と一つ屋根をシェアして暮らしているそうだ。

■知識や経験も分かち合えば収入につながる

シェアすることで変わるものに「働き方」がある。シェアの基本はCtoC(Consumer To Consumer、個人間取引)。つまり企業に属さずとも、自分の裁量で収入を得ることができる。たとえ特別な技能がなくても、「ペットのお世話をする」「自分の家を宿泊場所にする」など、自分の経験や知識、モノをシェアすれば収入につながるのだ。

例えば「タスカジ」は、一般の主婦でも他の家庭で家事を手伝ったり、ノウハウを教えたりするスキルシェアサービスだ。それまで埋もれていた主婦の経験や知恵が価値になることで、大きな反響を呼んだ。

また、働く場所をシェアすれば仕事の幅も広がる。著者はもともとフルタイムの正社員だったが、会社を辞めてシェアオフィスやコワーキングスペースを利用するうちに、隣りあった人とアイデアを交換するなど、思いがけない仕事をするようになったという。場所をきっかけに多彩な人とつながり、新たな仕事やプロジェクトが生まれてくるのだ。

■「つながり」が居場所をつくりだす

シェアによる最大の恩恵は人と人の「つながり」だと著者は強調している。モノや場所、スキルを誰かと共有すれば、そこにコミュニケーションが生まれる。その交流の積み重ねが、コミュニティー、つまり自分の居場所をつくってくれる。

つながりは、地域社会をも救うようだ。高齢化の進む北海道天塩町では「notteco」というシェアサービスと自治体が「相乗り交通」を開始。交通弱者となっている高齢者と、マイカーを持つ地域のドライバーをマッチングし、公共交通に頼らずとも移動手段を確保する共助(助け合い)のしくみを実現している。

著者いわく、シェアの原風景にあるのは「醤油(しょうゆ)の貸し借り」だ。他者を信頼し、「お互いさま」といって手を差し伸べあう精神が、シェアの本質。仕事、子育て、老後など、これからの時代を生きるうえでの悩みのほとんどはシェアによって解決できる、と著者は言い切る。大切なモノを他人に貸すなんてとんでもないと思っている人にこそ、手にとって欲しい1冊だ。

今回の評者=安藤奈々
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。早大卒

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