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梶原しげるの「しゃべりテク」

家賃滞納トラブルを解決 貧困と向き合う司法書士

2019/3/28

■飛び込み営業は失敗続き

「もう、(試験のことは)忘れよう」。そう腹をくくったところへ「見たことのない通知」が届いた。「あなたなら取れますよ」と女性弁護士が声をかけてくれた日から6年。36歳になっていた。「人助けのための資格取得」ではなく、「生きていくための資格取得」だった。

とはいえ、資格さえ取れば仕事を始められるわけではない。まず、どこかの司法書士事務所のスタッフとして採用してもらい、実務を身につけることが必要だ。ところが、36歳、実務経験ゼロ、シングルマザーという3つのハードルはいささか高すぎた。

あきらめずに何十枚と書き送ったうち、面接してくれるという事務所が1件だけ大阪にあった。彼女の人柄を気に入ってくれた代表が提示した給料は月額手取り15万円。これは資格取得前に単純事務の仕事でもらっていた金額12万プラス母子手当の額とほぼ変わらない。不安げな表情を読み取った事務所長はこう付け加えた。

代表「自分で仕事を持ってきたら、その売り上げの4割は給料と別に払う。不動産の登記で10万円の仕事をとれば、君の収入に4万円が追加される。2つ取れば8万、3つとれば…」

希望の光が見えてきた。事務所が休みの土日、不動産業者への飛び込み営業を繰り返した。

そして、程なく気がついた。不動産業者には大抵、なじみの司法書士がいて、全くの新参者に登記を任せようという店はあまりなさそうだということに。でも、子供のためにもあきらめるわけにはいかなかった。

■トラブルから見付けたビジネスチャンス

彼女は断られる場面で頻繁に耳にしたある言葉が自分の人生を好転させてくれるかもしれないと直感した。

断る不動産業者「家賃を払ってもらえないで困っているオーナーさんに対応しないといけないんで、またにしてください」

どうやら不動産業者は貸し主と借り主との間で発生する家賃滞納問題で頭を抱えているようだ。すなわち、それこそがビジネスチャンスだと、彼女は気づいた。

折よく、その年(2002年)の司法書士法一部改正によって、弁護士だけでなく、司法書士も一部の裁判業務を行えるようになっていた。多くの司法書士は効率よく扱いやすい過払い請求案件に走ったが、彼女は手間のかかる割には実入りが少ないとされていた「家賃滞納者の明け渡し訴訟」を選んだ。学生時代にインタビューした成功者や、球団時代を共にした選手たちから学んだ「楽でないほうを選んでこそ、手にするものが大きい法則」が頭にあったのかもしれない。

家主側(賃貸物件オーナーや不動産業者)の訴訟代理人として、滞納者に明け渡しを求める訴訟手続きを行うのが主な仕事の中身だ。それを彼女が手際よく行える理由の1つは「まずトラブルの現場に急行する」という姿勢のおかげだ。

太田垣「滞納者の発生現場で状況を見たうえで、滞納者に直接会って話を聞いて、時には滞納者の人生の仕切り直しサポートもすることによって、問題が早期に解決する。依頼側、滞納者の双方にとって先延ばしで得するものはありませんから」

「楽ではないほう」を選んだおかげで、その後、縁のできた多くの不動産業者から明け渡し業務とは別に登記や相続の仕事も依頼されるようになり、太田垣さんのビジネスは順調に推移しているようだ。成功に至るためには、具体的な経験と決断、そして先を見通す力が欠かせないとあらためて思った。

※「梶原しげるの「しゃべりテク」」は毎月第2、4木曜掲載です。次回は2019年4月11日の予定です。

梶原しげる
1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。

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