ブック

ひらめきブックレビュー

がんの痛みも「面白がる」 素で生きた樹木希林の言葉 『一切なりゆき 樹木希林のことば』

2019/3/28

2018年9月15日、女優・樹木希林が永眠した。本書『一切なりゆき 樹木希林のことば』は、樹木が雑誌記事で語ってきた言葉の中から154の言葉を文春新書の編集部が厳選し、編まれたものである。

■「ヌードになるより恥ずかしい」

樹木は普段から特別、役作りというのはしないのだという。現場で扮装(ふんそう)をしたら勝手にその役の気持ちに入り込んでしまう。「私の場合、女優業ってそれくらいのこと」と彼女は語っている。

人は誰しもそれぞれ自分や家族の中に重たいものを抱えている。しかし、どんな役でも同じ人間という体をしている以上は共通する部分が必ずある。たとえ殺人犯の役であっても、何かその人が生きるだけの道理がある。それを上から目線でかわいそうな人だとか残酷な人だとか思って演じるのではなく、自分に重ねるように、すっと役に入っていく。

第71回カンヌ国際映画祭において最高賞であるパルムドールを獲得した映画『万引き家族』(監督・是枝裕和)では入れ歯を外し、「髪の毛もだらぁと長くして、気味悪いおばあさん」を演じた。是枝監督の作品に出るのもこれが最後だと思ったため「ヌードになるより恥ずかしい」その姿で出演することを自ら提案したそうだ。「人間が老いていく、壊れていく姿というのも見せたかった」のである。

■「とにかく、やってみましょうか」

樹木の葬儀。喪主代理の挨拶において、娘の内田也哉子は「いつか言われた母の言葉」として次の言葉を紹介した。

「おごらず、他人と比べず、面白がって、平気に生きればいい」

樹木は活字の中でたびたび「面白がる」という言葉を口にしている。がんの放射線治療の後遺症で肩がゴキンと鳴り「ウアッ」と思っても、「痛い」ではなくて「ああ気持ちいい」と言い換えて状況を面白がるのだ。

口の周りに何かが付いていても気付かないことがある。それでも「よく気が付かないもんだなあ、面白いなあ」と感心する。「昔はよかった」と嘆くよりも、「へえ、こんなこともできなくなるんだ!」と自分の変化を楽しんだ方が得だと考える。「取るに足らないように思える人生も、面白がってみると、そこに幸せが見つけられるような気がする」

本書のタイトルは、樹木が生前、色紙に書いていた言葉「私の役者魂はね 一切なりゆき」から取られたものだ。どんなときでも「とにかく、やってみましょうか」と、あるがままを受け入れて演じてきた樹木を体現する言葉である。

人間を、いかにして自分の身体を通して表現するか。それが役者の仕事である。「存在そのものが、人が見た時にはっと息を飲むような人間になりたい」と語っていた樹木。その願いは、完全にかなえられたように思う。

今回の評者=山田周平
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディティング・チームの一員。埼玉県出身。早大卒。

一切なりゆき 樹木希林のことば (文春新書)

著者 : 樹木 希林
出版 : 文藝春秋
価格 : 864円 (税込み)

ブック 新着記事

ALL CHANNEL