ひらめきブックレビュー

不測の事態に100%対処する 国際線機長の習慣とは 『国際線機長の危機対応力 何が起きても動じない人材の育て方』

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社運がかかった大事なプレゼン。発表者のあなたは綿密に作り込んだスライドを背に、首尾よく説明を続けている。だが、中盤のいちばん大事な場面で事件は起こった。満を持して新製品をお披露目するはずのスライドには……。ライバル会社のヒット商品がデカデカと映し出されていたのだ。さあ、どうする?

このケースでは、いくら社運がかかっていたとしても失敗が即座に人命に関わることはまずない。しかし、旅客機のパイロットは違う。人為的なミスや不可抗力の事態への拙い対応が多数の乗客・乗員の死につながる。とりわけ、何が起こるかわからない長時間のフライトをこなす国際線の機長には究極の危機対応力が求められるだろう。

本書『国際線機長の危機対応力 何が起きても動じない人材の育て方』の著者は元日本航空(JAL)国際線機長。ボーイング747機長として世界30カ国へのフライト経験があるそうだ。その後、スカイマーク乗員課機長、ライン操縦教官などを経て現在は桜美林大学教授。

著者は機長や指導教官としての豊富な経験をもとに、不測の事態に備えるためにどんな心構えと習慣を持っておくかについて語る。いざというときにどう行動すべきかなども含め、安全運航のために必要なことがらを網羅的に書き記している。そのハイレベルの危機対応の数々は、あらゆる業種・職種のリスク管理、危機に強い人材育成やチームづくりにも役立つに違いない。

■パイロットは「将来を予測していま行動する」

すべてのパイロットは「未来を変えるために、将来を予測していま行動する」のだという。現在起こっている事態に対応するだけの人間はパイロットにはなれない。とは言え、ベテランならいざ知らず訓練生や新人が将来を的確に予測するのは簡単ではない。そこで訓練生には最初に、たいていの状況に対応できるいくつかの「原理原則」が教えられる。

例えば「確実性」の原理原則。決められたことを決められたとおりに一つの操作をしたら、必ずそれに対応する変化を確認してから次の操作へ。その操作に関係する誰か一人でも疑問を持ったら、やり直す。あるいは管制官に確認する。

またフライト中、誰かが「何となくおかしい」と感じることがある。著者によれば、その感覚を大事にしていたら防げた事故はたくさんある。だから、機長でも副操縦士でも少しでも懸念があったら必ず口に出すことが求められる。わずかな違和感でも再確認し場合によっては最初からオペレーションをやり直す。

ぜひ、パイロットの訓練生になったつもりで本書を読んでみてほしい。どんな事態にもうろたえないための貴重なヒントが、きっと手に入るはずだ。

今回の評者=吉川 清史
情報工場SERENDIP編集部チーフエディター。8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」の選書、コンテンツ制作・編集に携わる。大学受験雑誌・書籍の編集者、高等教育専門誌編集長などを経て2007年から現職。東京都出身。早大卒。

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