ローソンは、導入中のスマホレジを9月に1000店まで拡大する。一方、電子タグ(RFID)の実証実験を行い、ダイナミックプライシングやAI(人工知能)を活用してマーケティング情報を収集。人手不足対策として省人化を実現するため、メーカー各社や卸会社を巻き込み、レジ作業の効率化とサプライチェーンの最適化を推し進める。

ローソンゲートシティ大崎アトリウム店のRFIDリーダー付レジ。カウンター奥に設置されたRFIDリーダーの上に商品を載せると、自動的に価格が表示される。店員が商品のバーコードを読み取る作業は不要になる
ローソンゲートシティ大崎アトリウム店のRFIDリーダー付レジ。カウンター奥に設置されたRFIDリーダーの上に商品を載せると、自動的に価格が表示される。店員が商品のバーコードを読み取る作業は不要になる

 東京・品川にある複合ビル「ゲートシティ大崎」。同ビルに入居するIT企業で働くAさんのスマートフォンに、コンビニからLINEメッセージが届いた。

 「本日の食品ロスを減らすための買い物情報をお届けします」。メッセージ内にあるURLにアクセスすると、消費期限が近付いている総菜パンを購入すればLINEポイントがもらえることが分かった。時刻は18時少し前。そろそろ小腹がすく時間だ。パソコンに向かっていたAさんは、「ちょうどいい。休憩がてら買いに行こう」と席を立った。

 ローソンは、2019年2月12日から28日まで、ローソンゲートシティ大崎アトリウム店で、経済産業省主導による電子タグ(RFID)を活用した実証実験を実施した。本実験は、2025年までにコンビニ5社の全商品に1000億枚のRFIDを付けることを目指す取り組みの一環だ。今回は、店舗スタッフの省人化と食品ロスの改善などを目的に、一部商品にRFIDを貼り付けて、リアルタイムに商品在庫や消費期限の情報を取得するシステムを導入。このシステムを使い、「ダイナミックプライシング」「デジタルサイネージによるターゲティング広告」「RFIDリーダー付レジ」「情報共有システム活用」の4つを実験した。

 冒頭のAさんのシーンは、今回の実験によるダイナミックプライシングの買い物体験を再現したものだ。ダイナミックプライシングは、一般的には販売状況などに応じて価格を変動させる手法だが、今回の実験では、値引きの代わりにポイントを還元する方法を採用した。仕組みはこうだ。店舗で、商品に貼ったRFIDの情報を棚に設置したリーダーで読み取り、消費期限を判定。消費期限が迫った商品を特定し、登録ユーザーのLINEアプリに、その商品を購入したらポイントを還元するというメッセージを送付する。メッセージを見たユーザーは、店舗で商品を選んで「LINE PAY」で決済し、後日ポイントを受け取る。

 店舗運営の省人化は、客にとってはサービスレベルの低下と受け取られかねない。来店したくなる魅力を訴求するため、利便性や低価格などを打ち出す必要がある。ダイナミックプライシングには、食品の廃棄ロスを減らすと同時に、価格面での価値を提供する狙いがある。

RFIDを貼った商品を陳列する棚。棚にはRFIDリーダーとカメラ、液晶画面を搭載している。客が手に取った商品と客の属性を判別し、それに合わせて画面に広告を表示する
RFIDを貼った商品を陳列する棚。棚にはRFIDリーダーとカメラ、液晶画面を搭載している。客が手に取った商品と客の属性を判別し、それに合わせて画面に広告を表示する
ダイナミックプライスを実施する時間帯は、商品棚の表示で告知する(写真提供/ローソン)
ダイナミックプライスを実施する時間帯は、商品棚の表示で告知する(写真提供/ローソン)

 2つめの実験項目、デジタルサイネージによるターゲティング広告では、来店したユーザーが棚から商品を手に取ると、画面に商品情報や広告を流す。この実験でもRFIDが重要な役割を担う。まず、棚のRFIDリーダーによってユーザーが持った商品を判別。さらに、棚に設置したカメラの映像をAIがリアルタイムに解析し、性別や年代を割り出す。画面に表示する広告内容は、手にした商品とユーザーの属性に応じて変化させる。

 このカメラでは、ユーザーの表情や目線の動きも撮影しており、画面の広告を見たか、その時にどのような表情をしていたかといったことも、データとして蓄積する。こうしたデータを分析し、どのタイミングで広告を出すと、ユーザーの目に留まりやすいかを検証する。取得したデータと検証結果は、マーケティング情報として、メーカーと共有する。

RFIDを貼った商品。RFIDはシールに添付して商品に貼り付けている
RFIDを貼った商品。RFIDはシールに添付して商品に貼り付けている

 3つ目の実験項目、RFIDリーダー付レジは、カウンターのレジにRFIDリーダーを搭載し、商品を載せるだけで価格を自動精算するシステムの実用性を検証する。実用化すれば、精算に要する時間を短縮し、店員のレジ作業と客のレジ待ちのストレスを軽減できる。

 4つ目の実験項目、情報共有システム活用では、メーカーや物流センターで商品にRFIDを貼り付け、在庫情報などをメーカー、卸会社、店舗が共有する。これによって将来、サプライチェーンの各企業が連携可能になり、食品ロスや返品を減らすことができる。

 ローソンは、RFIDの導入によってユーザーの利便性を鑑みながら省人化を図っている。さらに食品メーカーや卸会社も含めたサプライチェーン全体の効率化も狙う。

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