最近注目度が高まっている次世代のモバイル通信規格「5G」。その5Gの最新動向を占ううえで重要なイベントとなる、携帯電話の総合見本市イベント「MWC 2019」が、今年もスペイン・バルセロナで開催された。5Gで消費者にどのような影響が起きようとしているのかを追った。
今、急速に注目を高めている、次世代のモバイル通信規格「5G」。日本では2020年の商用化が予定されているが、海外では2019年より商用サービスを開始する国が増え、関心が高まっている。
リーズナブルな5Gスマホの登場が普及を加速
MWCでは毎年、携帯電話事業者から通信設備メーカー、そしてスマートフォンなどの端末を提供するメーカーまで、携帯電話に関連する多くの企業が集い、最新技術やサービスを展示しているのだが、2019年の展示の中心となっていたのはやはり5Gだ。
日本では20年の商用サービス開始が予定されている5Gだが、海外では19年に商用サービスの提供を予定している国が急増したことから、グローバル視点では今年が「5G元年」と位置付けられている。各社の展示も、18年と比べより具体性を帯びた内容となってきた。
それを物語っているのが5G対応スマートフォンの急増ぶりだ。18年までは5G対応のモデムやチップセットが開発中で、対応スマートフォンの姿を見ることはできなかった。だが19年のMWCではいくつかの会社が、いつ商品化されてもおかしくない完成度の5G対応スマートフォンを展示しているのだ。
最も注目を集めたのは、やはりディスプレーを折り畳める中国ファーウェイのスマートフォン「HUAWEI Mate X」だが、5Gの普及という視点でより注目されるのが、中国シャオミの「Mi MIX3 5G」である。これは米クアルコムの最新チップセットやモデムを採用することで5Gに対応させたスマートフォンだが、599ユーロ(約7万6000円)と、5G対応スマートフォンとしてはかなりリーズナブルな価格で販売されるというのだ。
3Gや4Gが商用サービスを開始した当初の動向を振り返ると、対応端末が出そろっていなかったり、価格が高かったりしたことで急速な普及には至らず、スロースタートになる傾向が強かった。だが5Gでは商用サービス開始前から、ここまで低価格の端末がそろってきているだけに、ロケットスタートを切る可能性が出てきたといえよう。
消費者に5Gの利活用を推し進めるのはスマホ以外
もっとも、スマートフォンで5Gの恩恵を受けられるのは、その特徴である「高速大容量通信」が生きる動画のストリーミングや、「低遅延」が生きるオンラインゲームなど、一部の利用シーンに限られる。5Gを広く普及させるうえでスマートフォンの存在は重要ではあるものの、ポテンシャルをフルに発揮できるデバイスではない。
それだけに商用サービスのめどが立った今後は、5Gのポテンシャルを存分に発揮するためのデバイスやサービスの開発が求められることとなるだろう。こうした動きは特に自治体や法人などで活発で、MWCでも5Gの低遅延を生かした自動運転や遠隔医療、そして多数のデバイスを1つの基地局に接続できる「多接続」を生かし、IoTデバイスと5Gネットワークで工場を管理する「スマートファクトリー」、都市の最適化を進める「スマートシティー」などに関する展示が多かった。
だがコンシューマー向けという視点では、スマートフォンの次となるサービスを生み出す明確な道筋ができていない印象を受ける。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などの「xR」技術と、5Gを組み合わせたエンターテインメントコンテンツの展示などは以前からあったが、それが消費者に受け入れられる内容に落とし込めているかというと、そうではない印象だ。
一方で、5Gをコンシューマー向けに分かりやすい形で提供する可能性を見せているのが「テレプレゼンス」だ。これは遠隔地にいる人と同じ場所にいるかのような体験ができるというもので、5Gの高速大容量や低遅延といった技術を生かしながら、消費者に分かりやすい形でサービスを提供しやすいため注目を集めている。
例えばNTTドコモは、今回のMWCでNTTグループやヤマハと協力し、「5G Cyber Jam Session」という展示を実施している。これは離れた場所にいるバンドのメンバーと、5Gのネットワークを通じてセッションするというもの。音だけのセッションというのはこれまでの実証実験でも実現していたが、今回の展示では音だけでなく映像も遅延なく伝送し、ホログラムを通じて表示することにより、遠隔地のメンバーがあたかもその場で演奏しているかのような雰囲気を実現していた。
こうした技術を応用すれば、遠く離れた場所のライブを、自宅などでより臨場感ある形で楽しむことが可能になる。既に映画館のライブビューイングというビジネスが存在するだけに、そうしたサービスを有料課金によるビジネスへと落とし込めば、消費者が理解しやすい形で5Gの活用が進むことにもなるだろう。
5Gは通信料金の仕組みも大きく変えるか
そしてもう一つ、今回のMWCで見えてきたのが、5Gで通信料の仕組み自体が大きく変化する可能性である。これまで携帯電話の通信料といえば、細かな仕組みに違いがあるとはいえ、基本的には通話時間とデータ通信容量によって毎月の料金が決まるのが一般的。だが5Gではその仕組み自体が、大きく変わる可能性が出てきているのだ。
その要因の一つが、携帯電話のネットワークを分割し、特定の帯域を特定の用途に適した形で割り当てる「ネットワークスライシング」という技術が本格的に導入されることである。
従来はすべての機器が一律に同じネットワーク帯域を使用していたため、使用する機器によってはネットワークを効率よく活用できていなかった。だが今後はネットワークスライシングによって、映像配信用のカメラには大容量通信、遠隔医療の操作には低遅延を重視し通信容量は少なくする……といったように、機器やサービスに応じて通信容量が最適化されるようになる。そうなれば、通信料も一律ではなく、機器やサービスによって変化することになるだろう。
さらにもう一つ、通信料金が大きく変わる要因として挙げられるのが、大容量通信の一般化だ。5Gでは4Gよりも高速大容量通信を利用するケースが増えると見られるが、一方でユーザーの通信容量が増えたからといって、ユーザーの負担を増やすのには限界がある。最近では行政が通信料金の一層の値下げを求めているだけに、なおさらだ。
それゆえ今後は、通信“容量”ではなく通信の“質”で料金が変化する仕組みが導入されることもあり得るという話を、今回のMWCの取材の中でたびたび聞くことができた。例えば、通常のプランは通信容量は使い放題だが通信速度は4G程度で、プレミアムなプランに加入すると5Gの通信速度を利用できるようになる……といった具合だ。特にゲームなど、ネットワーク環境が体験に大きく影響するコンテンツやサービスの利用者に対しては、こうした施策は有効に働くと見られているようだ。
料金が変化すれば、ネットワークの使い方も大きく変わってくる。そうした点からも、5Gがもたらす変化がいかに大きなものになるかを理解できるのではないだろうか。