ディー・エヌ・エーと損害保険ジャパン日本興亜を傘下に持つSOMPOホールディングスは、個人間カーシェアリング事業の「DeNA SOMPO Mobility」と、マイカーリース事業の「DeNA SOMPO Carlife」という2つの合弁会社の設立を発表した。クルマの所有から利用への流れを加速させる異色のタッグで、衝撃の「0円マイカー」の構想も明かした。極めて巧妙に計算された、その狙いを読み解く。

新会社の発表会に登壇したDeNA会長の南場智子氏(写真左)と、損害保険ジャパン日本興亜の西澤敬二社長
新会社の発表会に登壇したDeNA会長の南場智子氏(写真左)と、損害保険ジャパン日本興亜の西澤敬二社長

 まずDeNA SOMPO Mobilityは、これまでDeNAが単独で展開してきた個人間カーシェア「Anyca(エニカ)」を引き継ぎ、2019年4月から事業を始める。Anycaは15年9月からスタートし、現在は会員数が20万人以上、登録車数は7000台以上、累計カーシェア日数は10万日以上と、個人間カーシェアでは最大手。しかし、「まだAnycaは黎明期であり、赤字の状態」(DeNAオートモーティブ事業本部長の中島宏氏)という。それはなぜか。

 1つの要因として考えられるのが、マイカーを貸し出す個人(オーナー)の絶対数が不足していることだ。タイムズ24が運営する「タイムズカープラス」のようなBtoCのカーシェアサービスの車両が全国3万台以上と見られるなかで、Anycaは7000台。首都圏は比較的車両が多いが、それでもBtoCのカーシェアほど手厚い面展開ができているわけではない。趣味性が高いクルマも多いから、借り手とのマッチング効率が上がりにくいのだろう。この“停滞感”を解消し、一気にブレークスルーするための妙手が、損保大手との連携だ。

 そのメリットは、大きく2つある。

マイカー保有者を狙い撃ち

 まずは、損保ジャパンが抱える約1300万件におよぶ自動車保険の契約者にアプローチできること。国内のマイカーの稼働率は平均で僅か3%しかないと言われており、多くは自宅の駐車場で“休眠状態”にある。もともと、そこにハマるのが個人間カーシェアのコンセプトで、Anycaの実績では自分が使わないとき他人にマイカーを貸し出すことで、「オーナーは東京23区の平均で月2万5000円の収入を得ている」(中島氏)という。現役のドライバーである自動車保険契約者にとってはマイカーの維持費軽減になるから、垂涎の提案になるということだ。

 これを、全国5万を数えるSOMPOホールディングスの保険代理店ネットワークを使って、強力に案内できるのが2つ目のポイントだ。このとき、これまでDeNAが収集してきたAnycaのビックデータがカギを握る。例えば、どこのエリアでどんな車種が人気を集めていて、月何回の利用でオーナーの収入がいくらになっているかというデータだ。

Anyca利用者の統計データ
Anyca利用者の統計データ

 一方、SOMPO側では、保険契約者がどこに住んでいて、どんな車に何年乗っているか、さらには使用頻度が多いのか少ないのか、主に通勤に使っているのか、週末ドライバーなのかということまで把握している。これらのデータを掛け合わせれば、保険代理店は既存顧客に効率的に営業をかけられる。「例えば、新宿区でトヨタ自動車のアルファードを運用しているオーナーはAnycaで月平均3万9000円の収入を得ている。我々の保険契約者から同じような属性の人を探し、マイカー保有の負担感を減らす提案をしていく」(損害保険ジャパン日本興亜ビジネスデザイン戦略部長の中村愼一氏)という。

 また、SOMPOの保険代理店は、これまで自動車保険を解約した人=クルマを手放した人を把握している点も大きい。この層に対しては、新たに個人間カーシェアの借り手となるよう促すことができる。つまり、シェアカーの提供者と借り手の双方を、一気に増やせる可能性があるということだ。

 さらに、今回の取り組みでは、個人間カーシェアの利用を促進するサービスの進化も予定されている。その1つが、19年中に導入予定のスマートデバイスだ。これはクルマの貸し手が通信モジュール内蔵の車載デバイスを設置することで、無人での貸し出しを可能にするもの。BtoCのカーシェアでは当たり前の仕組みだが、これまで個人間カーシェアでは対面での貸し出しが必須だった。“見知らぬ人”とのクルマの受け渡しの手間がなくなるので、借り手側、貸し手側双方で利用のハードルが下がることは間違いない。

 また、“飛び道具”ともいえるのが、「0円マイカー」の構想。Anycaでの運用を前提に、現状クルマを保有していない人に対してはDeNA SOMPO Mobilityが車両を貸し出し、マイカー保有者はレンタカー登録およびカーシェア受け渡し用機器の取り付けを行うことでプログラムに参加できる(事前審査あり)。0円マイカーのオーナーは駐車場を用意する必要はあるが、前者のクルマの貸与を受ける場合は無料で一定回数乗ることが可能で、車種は複数から選べる予定。後者のマイカー保有者の場合は「エリアや車種によって異なるが、マイカー維持費相当の定額をAnycaが支給する」(中島氏)という。

「0円マイカー」のビジネスモデル
「0円マイカー」のビジネスモデル

 いずれもAnycaを介した個人への貸し出しで発生する収益はDeNA SOMPO Mobilityに入る仕組み。そのため、想定ユーザーとしては駐車場料金がかからない戸建てに住む人が中心になりそうで、その場合、0円に近い実質負担で“マイカー生活”が送れるようになる。こちらは、19年夏ごろのサービス開始を目指す。

 損保ジャパン側では、個人間カーシェア専用の保険商品を検討していくという。例えば、Anycaでの1日当たり平均利用料金は約8000円。半分以上が1日5000~1万2000円のレンジで貸し出されている。それに対し、現行のAnycaの利用時に加入する1日自動車保険料は一律で約2000円となっており、かなり大きな比重を占める。一方、実は、Anycaの借り手の50%はマイカー保有者という実態があり、その人たちは当然、何らかの自動車保険に加入している。この“2重保険”の負担感を減らすため、「個人間カーシェア利用時に1日保険に入らず、自動車保険の『他車運転特約』を適用できる保険設計を考えたい」(中村氏)という。

 もう1つ、マイカーを貸し出すオーナー側に対しては、クルマをシェアすればするほど自動車保険料が安くなる商品設計が考えられるという。シェアしている時間、オーナーはクルマを使っていないので、確かに合理的だ。また、中村氏は「『クルマを返却されないリスク』に対応できる新しい保険なども作っていきたい」と話す。

カーリースの仕組みもアップデート

 DeNAとSOMPOホールディングスによる合弁会社DeNA SOMPO Carlifeは、19年6月からマイカーリース事業を始める計画だ。実は、マイカーリースは直近の3年間(15~17年度)で1.6倍に拡大している成長市場。2月にはトヨタ自動車が「KINTO(キント)」のテスト展開を東京で始めるなど、諸費用込みの定額パッケージでクルマ所有のハードルを下げる取り組みとして再注目されている。

 そんな激戦区に乗り込むに当たって、DeNA SOMPO Carlifeが用意した仕掛けは斬新。Anyca公認のサービスとして、リース車両オーナーはAnycaを通じてクルマを貸し出し、収益を得ることができるのだ。通常リース会社は又貸しを禁止しているから、同じことはできない。

 例えば、トヨタ自動車のアルファードを大手リース会社から借りると、3年契約で月々約5万8212円かかる。トヨタが自ら始めた「KINTO ONE」のプランでは諸費用に加えて任意保険も付くが、3年契約で月々8万5320円から。この負担額を許容できる人は、一体どれだけいるだろうか。

 それに対して、DeNA SOMPO Carlifeのリース料金は「一般的な水準」(中村氏)と言うものの、クルマを使わない時間にAnycaで貸し出せる。先述したように新宿区でアルファードを運用しているオーナーを例にとると、Anycaによる収入が月平均3万9000円あるから、実質的なリース負担額は月約1万9212円になる。これは、軽自動車をリースするのと同じ水準でアルファードが借りられるということだ。「メルカリのような個人間売買の仕組みが普及することで、初期コストは大きくてもリセールバリューが高い商品を選ぶという消費行動が生まれている。それに当てはめると、より貸し出しニーズの高いクルマをリースして、賢くカーライフを送るニーズがあるということ」(中村氏)という。まさに今回の仕組みは、それに叶うものだ。

DeNA SOMPO CarlifeのカーリースでAnycaを利用した際の負担額イメージ
DeNA SOMPO CarlifeのカーリースでAnycaを利用した際の負担額イメージ

 このDeNA SOMPO Carlifeが始めるリースプランについても、リアル店舗ではSOMPOホールディングスの保険代理店経由で取り扱う。ここでもAnycaで収集したビッグデータを活用するから、利用者が選んだ車種でどれだけリースの実質負担額が減らせる可能性があるのか、契約前にある程度イメージすることが可能だ。まずは首都圏、愛知、大阪から始め、将来的に月1000台、年間1万2000台規模の契約を目指す。また、今後はAnyca連携の他にも、「保険会社ならではの安全・安心をプラスしたカーリース商品を提供していく」(中村氏)という。

 このように、今回のDeNAとSOMPOホールディングスによる個人間カーシェアの強化、カーリースの新しい枠組みの提案は、“クルマ離れ”を引きとどめる有効なアプローチになり得る。個人間カーシェアをめぐっては、中古車大手のIDOMも既存の販売ネットワークや顧客IDを生かして、19年4月に「GO2GO(ゴーツーゴー)」を始める予定がある(関連記事「個人間カーシェア普及に突破口 中古車IDOMの斬新戦略」)。これらの「利用」に着目した新勢力が、日本のクルマ社会を変えていきそうだ。

NIKKEI STYLE

この記事をいいね!する