明治政府はなぜ旧暦を捨てた? 暦でわかる世界の文化『世界をよみとく「暦」の不思議』

暦は非常に身近なものながら、存在感が薄いといえる。だが、国立民族学博物館名誉教授中牧弘允氏の著書『世界をよみとく「暦」の不思議』を読むと、暦が人類の歴史や文化、文明を写し出した鏡のようなものだと気づく。

文化圏によって異なる暦と季節のずれのとらえ方

1年の長さや年月日を決める暦法は主に3つある。その1つが太陽暦だ。ナイル文明の頃から使われており、太陽が黄道を1周する約365.2425日を1年の単位とする。端数の0.2425日ゆえに生じる暦と実際の季節のずれはごくわずか。4年に一回の閏日(うるうび)で調整するだけでよい。この暦法の正確さに感心したカエサルがローマに持ちこみ、ユリウス暦が誕生した。後に若干変更したグレゴリオ暦が、現在のグローバルスタンダードとなっている。

月の満ち欠けの周期を基準とするのが太陰暦。イスラーム圏で使っているヒジュラ暦がその代表だ。1カ月を29日または30日とするため1年は約354日。時折閏日を入れて調整はするが、季節とのずれは10~11日とかなり大きい。しかし、ムハンマドが神の啓示を受けて信仰の証として採用した太陰暦が、今でも重要な基準なのだ。

日本は、明治5年(1872年)まで太陰太陽暦である旧暦を使用していた。2~3年に一度の閏月(うるうづき)、つまり13カ月目の月を入れ、太陰暦のずれを太陽暦に合わせるという方法で、日本の気候風土や農事中心の生活と相性がよかった。

では、なぜ日本は旧暦から太陽暦に改暦したのか。一説には財政難の明治政府が閏月の多い旧暦からの変更で官公吏の給料節約を図ったから、といわれている。真相はともかく、当時西洋化へ進み始めた日本は、暦も西洋列強に合わせて、世界に並ぼうと考えたのだ。

このように、暦法の選択は各国の歴史や文化圏の特徴に大きく関わっている。

暦の多様性から見えてくること

私たちは現在使っているグレゴリオ暦を皆が使っていると思いがちだが、世界には実に多様な暦がある。例えば、ボスニア・ヘルツェゴビナのカレンダーには祝祭日の記載が一切ないものがある。多民族多宗教がそれぞれ暦を持っているがゆえ、内戦の経験から平和的共存のために特定の宗教に基づく祝日は記していない。

カメルーンのドゥル族は、大事な作物を育てるために独自の自然暦を使っている。12カ月構成だが1カ月の日数は一定ではなく日付もない。重要なのは雨期と乾期の時期、いつどんな農作業をすればよいかという自然のサイクルだ。

暦を知れば、その多様性を生み出した人間の文化、文明、思想を知ることになる。また、猛暑や暖冬で体感と暦上の季節のずれを実感すれば、地球環境にも関心が向く。暦とは、人類と世界をさまざまな観点で結ぶ、精緻でオーガニックなツールと言えそうだ。

今回の評者=大武美和子
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディティング・チームの一員。慶大卒。

世界をよみとく「暦」の不思議 (イースト新書Q)

著者 : 中牧 弘允
出版 : イースト・プレス
価格 : 907円 (税込み)

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