プロレスは伝承文化だと思っています。僕自身が伸びていくとき「アントニオ猪木のマネだ」と言われ、そうだと思う自分もいましたが、みんなベテラン、先人の技を使い、結果的に形を変えてきています。プロレスは相撲ほど歴史はないですが、先人がやったことを伝承しているんだと思います。伝統文化ではなく伝承文化。マネという意味と、伝統というほど年月がたってもいないからです。
天龍のやり方を伝承する選手もいませんね。クセがあって天邪鬼みたいな。プロ野球でいえば王・長嶋の時代の高林恒夫さんや江夏豊さんでしょうか。僕らの時は語弊があるかもしれないけど、リングの上で命が途絶えてもいいと考えてやっていました。(阿修羅・原とのタッグ)龍原砲のときには本当にそうでした。
プロレスは技をよけてばかりいたらいつか負けます。技をひたすら受け、相手の人間性と間尺を測りきったうちに見えてくる世界があります。僕はそれをやってきた。だから格闘生活を振り返り「腹いっぱいのプロレス人生」と胸を張って言えます。=この項おわり(加藤貴行)
[日経産業新聞2018年4月4日付]
※天龍源一郎氏の「仕事人秘録セレクション」は水曜掲載です。

てんりゅう・げんいちろう 本名・嶋田源一郎。1963年、福井県の勝山市立北部中学2年のときに二所ノ関部屋入門。76年廃業し、全日本プロレス入団。90年SWS移籍、92年WAR設立、98年からフリー。2010年天龍プロジェクト設立、15年現役引退。