上司はなぜイラッとした? 言葉使いの肝はふさわしさ

目上に尋ねると、反感を買う質問

「ふさわしさ」を心得た人は「コーヒー、お飲みになりたいですか」ではなく「お飲みになりますか?」「コーヒーでもいかがですか?」と尋ねるはずだ。職場で言葉を受け取る人への配慮がスムーズに行えるコミュニケーション能力が求められるのも、当然な気がしてきた。

例:部下が上司に「部長はフランス語もお話しになれるんですか?」

例:部下が上司に「課長は夏休みにはどこへいらっしゃるつもりですか?」

これらの会話も「目下が目上に、能力、意思、願望を尋ねること」はふさわしくないと理解できていれば、感じ悪さを避けられる。

部長への声がけは「フランス語もお話しになるんですね」と、「能力を問わない言い方」に言い換えがきく。課長に対しては「夏休みはお出掛けですか?」ぐらいの、意思、願望を直接的に問わないような形での「ふさわしい気持ちのやり取り」が職場を生き生きさせる可能性が高い。

例:部下が上司に「いい時計ですねえ、いくらしましたか?」

この購入価格を尋ねる質問に関しては、今回の調査ではさすがに8割近い人が「ふさわしくない、感じ悪い」と答えている。

目下、目上に限らず、よほど親しい者同士を除き、相手の買った物の値段を尋ねるなど、個人的な領域に踏み込むことは慎むのが「ふさわしい」と多くの人が考えている。「学生感覚の延長」でこんな言葉のやり取りを取引先でされたら、言った当人だけでなく、会社のレベルや信用を疑われかねない。

価値判断のニュアンスは目上をイラッとさせる

例:「先生の御著書を拝読して、内容的に高い水準に達し、価値があるものと感じました」

出版社が採用した新人が、著者に向かってこんなふうに言ったら、「次作は別の出版社から出す」と、へそを曲げられるおそれさえある。御著書(尊敬語)、拝読(謙譲語)と、敬語は適切でも、後半の「高い水準」「価値がある」と、新人が大御所先生を評価してしまった時点で立腹されても仕方がない。

「下の立場(社員)」は「目上(先生)」に対し評価してはならないというのが一般的な理解のようだ。たとえ「プラスの評価」であっても「不遜だ、感じ悪い」と受け止められ、その後の取引に重大な被害をもたらす可能性がある。「相手への評価」ではなく、「感激しました」「勉強になりました」など、自分の受けた感動として伝えることが、職場で求められるコミュニケーション能力なのだ。

同様に、部下が上司のプレゼンテーションを見た後、「部長のプレゼン、上手ですねえ」とプラスに評価するような賛辞も「お前に言われたくない!」という反発を生むだけだろう。「自らの感動として伝える」という知恵も「コミュニケーション能力」のひとつだ。

「御著書」の例に登場した先生に講演をお願いする際、「内容は御著書にお書きになったことと同じもので、十分です」「他のお話でも構いません」と言ってしまえば、先の例同様、後半の「十分です」「構いません」で先生の気分を激しく害するはずだ。お願いする側(目下)が「十分だ」「構わない」と「判断を下す言い方」はふさわしさを欠き、失礼で、感じが悪いから、避けるのが賢明だ。

実際にはこんな新入社員はそうはいないだろうが、「いたら大変」という、採用側の過度な危機意識が、志望者を選考する際、最も重視する能力を「コミュニケーション能力」と答えさせているのではないかと、この報告を読んで邪推した。

※「梶原しげるの「しゃべりテク」」は毎月第2、4木曜掲載です。次回は2019年3月14日の予定です。

梶原しげる
1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。

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