話す力を磨く(下) 自問し考え抜く経験を池上彰の大岡山通信 若者たちへ

今回も「話す力を磨く」について考えます。技術を磨くには、まず話をしたいテーマについて自分の頭で考え、必要な知識や情報を整理することも大切です。人前で話すことで思考が整理されるのです。自分が人前で話をせざるを得ないように追い込むことで、自分の話す技術が磨かれます。

大学教授になって海外の大学を視察したときのこと。「何を話せばよいのか」という多くの日本人留学生に会いました。外国人学生たちは育った国の歴史や政治、文化をよく知っている。休み時間やランチタイムで始まる議論についていけないというのです。

一方、外国人学生から見ると「日本人はハッキリと自分の考えを言わない」と思われています。海外では様々な言語や文化を背景にした学生が集まっています。明確に発言しなければ、存在すら認められないかもしれません。主張することから始まるのですね。

◇ ◇ ◇

私なりに解釈すれば、日本という国は島国で、ほぼ同じ言語を使ってきた歴史と深いつながりがあるのでしょう。強く主張するより、相手の気持ちを忖度(そんたく)して行動した方が、組織や社会に受け入れられる日本の社会特有の環境が浸透しているのでしょう。

たとえば世界について話をするために大切なことは「まず日本を知ること」でしょう。政治や経済、文化や歴史を知ることも欠かせません。また、いまの日本を外国人に伝えるという点では、アニメーションや食文化も魅力的かもしれません。

論点を理解し、自分なりの考えを整理する作業を積み重ねていると、「なぜだろう」という問題意識が芽生えます。きっと、「人にも伝えたい、聞いてほしい」という気持ちが高まるはずです。

◇ ◇ ◇

以前、高校生から「多くのテーマを考え、話せるようになるために、世界の動きにどうアンテナを張るべきですか」と質問されました。でも、恐れることはありません。

いけがみ・あきら 東京工業大学特命教授。1950年(昭25年)生まれ。73年にNHKに記者として入局。94年から11年間「週刊こどもニュース」担当。2005年に独立。主な著書に「池上彰のやさしい経済学」(日本経済新聞出版社)、「池上彰の18歳からの教養講座」(同)、「池上彰の世界はどこに向かうのか」(同)、新著「池上彰の未来を拓く君たちへ」(同)。長野県出身。68歳。

その際、「高校時代には学業に専念し、余力があればシェークスピアなどの古典の教養の基礎を身につける努力をすればよいでしょう」とアドバイスしました。世界にアンテナを張るのは、高校を出てからでも決して遅くはありません。

インターネットが発達し、日本にいながら世界の情報を集められる時代になりました。ただし、いわゆる「まとめサイト」には注意してください。誰が、どれだけ事実を確認して書かれた文章なのか、確かめるのが難しい場合があるからです。

日本では、子どものころから、教室で先生の質問に答え、定期試験や入学試験で正しい答えを出す訓練をしてきたのでしょう。先生がどんな答えを求めているのかを即座に忖度できる生徒が優秀な生徒といわれてきました。それではいけないのです。

大学生になったら「自らの問いを立て、その問いへの答えを考え抜く」という経験を積んでほしいのです。自分と反対の考え方を知ることも重要です。「人前で話す力を磨く」という悩みは、知識や情報を増やしたり、テクニックを身につけたりすればすぐに解決するわけではありません。

まず「できるだけ簡単な言葉を使うこと」「話すテーマを自分の頭で考え抜くこと」というポイントを思い出してみてください。新年度、新しい課題としてチャレンジしてみるとよいでしょう。

[日経電子版2019年2月19日付]

今こそ始める学び特集
学生参加型コミュニティ 登録受付中
メールマガジン登録
注目記事
今こそ始める学び特集
学生参加型コミュニティ 登録受付中
メールマガジン登録