ひらめきブックレビュー

社会課題が市場をつくる SDGs時代の強い経営とは 『SDGsが問いかける経営の未来』

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

今、多くの企業がSDGsを事業に取り入れようと模索している。SDGsとはSustainable Development Goalsの略で「持続可能な開発目標」と訳す。2015年の国連サミットが採択したこの目標は「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」など17のゴールの下に、169の具体的なターゲットを掲げる。豊かな環境や、人権や平和への影響を顧みない従来の経済はやがて行き詰まる。そんな危機感から生まれたプロジェクトは、経済、社会、環境間のバランスで持続可能(サステナブル)な世界をめざす。

本書『SDGsが問いかける経営の未来』は、企業が社会価値と経済価値を同等に追求する新たな時代をいかに生き抜くべきか、海外企業の取り組みの豊富な事例と共にひもとく。著者のモニター デロイトは、戦略コンサルティングファーム。

■SDGsを戦略として捉える

社会価値創造を企業経営の根幹に据えるあり方は、CSV(Creating Shared Value=共通価値の創出)モデルとして認知されている。

SDGsがめざす持続可能な社会こそ、自社の長期生存の土台だと気づいた企業は、SDGsを企業経営の根幹にすべく、自ら市場を創造し、社会価値を能動的に生む戦略的活動へ切り替え、CSVを発展させつつある。本書によるとすでに世界の企業ブランドの69%が、SDGsをビジネス戦略に統合しているという。

例えば米小売り大手ウォルマートは、ゴールの一つである「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」のもと、使用エネルギーを100%再生可能にする目標を掲げ、店舗、倉庫など364カ所に太陽光発電を設置。その結果、化石燃料の高騰を回避し自社電力コストの安定化を果たすこともできた。同社はこの取り組みに、世界10万社の取引先を巻き込んでいるという。こうした企業に共通するのは、SDGsが明示した社会課題を、自社の潜在的な市場に読み換えていること。社会価値の創出による利潤で、持続的競争優位を確立する戦略だ。

■自社事業の成長で世界がよくなる

本書では、SDGs時代の経営モデルへと変革するための具体的な戦略を提示している。ブランディングという観点からは、顧客や外部のステークホルダー(政府、NGO、競合他社)などを引きつける能力の重要性を説く。ネスレなどの食品大手4社は、提携して行政へ持続可能な食糧政策を提言するアライアンスを立ち上げた。これにより、リーディングブランドとしての地位を消費者や市民に示すことにも成功しているという。「自社事業が成長して市場シェアを高めるほど、世界がよくなる」ような事業構造をめざす経営こそが、今求められていると著者は述べる。

SDGsと自社の強みを重ねながら、産業革命と経営革命を同時に進める企業がとるべき抜本的対策に満ちた本書。SDGsを改めて見直し、個人ができることについても考えさせてくれる。

今回の評者 = 丸洋子
 情報工場エディター。海外経験を生かし自宅で英語を教えながら、美術館で対話型鑑賞法のガイドを務める。ビジネスパーソンにひらめきを与える書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディティング・チームの一員。慶大卒。

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。