ひらめきブックレビュー

狙いは宇宙強国 中国「ハイテク自給自足」を読み解く 『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』

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中国というと米国との対立に目が行きがちだが、先日、中国の無人探査機が月の裏側に着陸したことをご存じだろうか。本書『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』によると、世界初のこの快挙には、中国の大きな野望が秘められているらしい。本書は中国の国家戦略「中国製造2025」を、人材と半導体および宇宙に焦点を当てながら分析することで、習近平の真の狙いと米中対立の根幹を露呈させている。著者は、日本における中国研究の第一人者、遠藤誉氏だ。

■肝心なことは控えめにしか書かない

「中国製造2025」とは2015年5月に発表された中国の国家戦略で、2025年までにハイテク製品のキー・パーツ(半導体など)の70%を「メード・イン・チャイナ」にし、自給自足することをうたったものだ。

これには2022年までに中国独自の宇宙ステーションを正常稼働するという計画も盛り込まれており、さらにここへは「量子暗号通信機能」が搭載される予定だ。

「量子暗号」とは、量子力学の原理を用いた、他者には解読不可能な新技術で、「暗号を制した者が世界を制する」といわれるように、国家間紛争の勝敗の鍵を握る。万一、戦争になった場合、日米にとって安全保障上の厳しい脅威となる危険性をはらんでいる。

「中国製造2025」に控えめに盛り込まれた宇宙開発には、このような戦略がひそかに込められていることを見逃してはならない、と著者は説く。

■いま日本に求められる行動とは

2017年10月の党大会で習近平は「宇宙強国」への道を歩む決意を表明した。言論弾圧をする国が宇宙を支配しようとしているのだ。だからこそトランプ大統領は、貿易戦争という形で中国に挑戦し、「中国製造2025」を阻止しようとしている、と著者は見ている。

習近平政権が唱える「一帯一路」巨大経済構想の範囲には、実に世界総人口の63%が存在するという。中国は、この中の発展途上国の人工衛星機能を担い、それを宇宙支配への足がかりにしていく戦略だ。まさに、陸海空に天(=宇宙)をも加えた「一帯一路一空一天」構想とも言えよう。

2018年10月安倍首相は、習近平との首脳会談でこの一帯一路に関し、協力姿勢を示した。こうした日本の態度にどのような意味があり、将来にどう影響するのか。本書を読んでじっくり考えたい。

今回の評者=平山真人
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディティング・チームの一員。鹿児島県出身。

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