ひらめきブックレビュー

北欧に最先端の電子政府 市民に「活躍の自由」与える 『ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけた つまらなくない未来』

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エストニアは「未来」である――。この一文にピンと来た読者は、どれほどいるだろうか。

エストニアとは国名で、フィンランドの南に位置するバルト三国の一つ。現在の人口が約130万人の小国だが、1991年の独立以来「IT(情報技術)立国」をめざし、今では世界最先端の電子政府を構築、運営する。

■行政手続きの99%をオンラインで受け付け

それだけではない。エストニアは「イーレジデンシー」という"仮想住民"を世界から募り、人工知能(AI)やブロックチェーンの活用、仮想通貨などでも先頭をひた走っている。

本書『ブロックチェーン、AIで先をいくエストニアで見つけた つまらなくない未来』は、現地取材などをもとに「理想の未来国家」を追求し続けるエストニアの実像をリポートした。

著者の小島健志氏はダイヤモンド社「週刊ダイヤモンド」編集部を経て、現在は同社「ハーバード・ビジネス・レビュー」編集部に所属する。監修者の孫泰蔵氏は連続起業家で、世界の大きな課題を解決するスタートアップを育てるMistletoeの創業者。ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長の実弟でもある。

エストニアでは、行政手続きの99%をオンラインで、24時間365日受け付けている。しかも、その処理はきわめて迅速だ。例えば子どもが誕生すると、その時点で病院がオンラインで国民登録手続きを行い、約10分後には政府から「お祝いメール」が届く。それは国の子育て支援に関する申し込みが完了したことを意味する。

国民にはデジタルIDカードが配布され、それさえあれば世界中どこにいても政府の公的サービスを受けられる。選挙の投票も可能だ。エストニア国民にグローバルに活躍する「自由」を与えるシステムなのだ。

■好きなところで暮らし、働いて楽しむ自由

その自由は、2014年末にイーレジデンシーがスタートしたことで、他国民にも広げられた。希望する外国人をエストニア政府が仮想住民と認めるイーレジデンシーでは、仮想住民は世界のどこに居住してもよい。母国の国籍を持ちながらエストニアの公的サービスを受けられる。

本書には孫泰蔵氏へのインタビューも掲載されている。そこで語られるのが「ヒューマン・オートノミー」という概念だ。孫氏は、その意味を「人は好きなときに、好きなところで生活し、働き、学び、友に出会い、子を育て、人生を楽しむことができる」と説明し、エストニアがそれを「実装」しているのだという。

ヒューマン・オートノミーが実装されれば、あらゆる可能性が開け、新しいアイデアが次々と生み出されるに違いない。そうなれば、きっと未来は「つまらなくない」だろう。本書でそんな未来を、ちょっとのぞいてみてはいかがだろうか。

今回の評者=吉川清史
情報工場SERENDIP編集部チーフエディター。8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」の選書、コンテンツ制作・編集に携わる。大学受験雑誌・書籍の編集者、高等教育専門誌編集長などを経て2007年から現職。東京都出身。早大卒。

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