定額で使い放題の「女性専用セルフエステ」が産声を上げた。その名も「BODY ARCHI(ボディアーキ)」。2018年11月、東京・表参道に1号店を開業し、早くも出店拡大フェーズに入る。その数、3年間で100店舗。エステスタジオで、ジムのように体と向き合う新業態は台風の目になるか。
BODY ARCHIは、Body(=体)と、Architect(=建築家)を組み合わせた造語。「ヒップをあと3センチだけ上げたい」「ウエストを2センチ引き締めたい」など、「なりたいボディーラインに、私が私をデザインする」というメッセージを込めた。
特徴は定額制(サブスクリプション)かつ、女性専用であること。1台250万円もする最先端のエステマシンを、完全個室で自由に使えるサービスで、自らのペースでボディーメークできる。いわば、エステとジムの間隙を突いた新業態だ。
運営するのは、東証1部に上場するネクシィーズグループ(東京・渋谷)。そのコア事業は2つある。1つは、飲食店やホテル、美容室、公共施設などにLED照明を貸し出すエネルギー関連事業。そして、もう1つは東証マザーズ上場の子会社ブランジスタが手掛ける電子雑誌の出版事業だ。そして今回、3本目の矢として参入を決めたのが、女性専用セルフエステジムだった。
なぜ、異業種にも関わらず、エステ×ジムという業態に打って出たのか。ネクシィーズグループの佐藤英也取締役社長室長は、2つの数字を挙げる。
まず、エステサロンの市場規模は、2017年度で3579億円(矢野経済研究所調べ)。需要は底堅いが、近年は伸び悩んでいる。一方で、フィットネスクラブの市場規模は4610億円(レジャー白書2018)と、4年連続で過去最高を更新するなど伸び盛りだ。
コナミスポーツクラブやセントラルスポーツが展開する大型のフィットネスクラブに加え、近年はボクシングを取り入れた「b-monster(ビーモンスター)」や、米ニューヨーク発の暗闇バイクエクササイズ「FEELCYCLE(フィールサイクル)」など個性派ジムが次々と参入。ストイックに体を鍛えたいという、女性の需要を取り込んでいる。
「ナンバーワン」目指し、あえて閑散期に出店
佐藤氏いわく、「ネクシィーズは、ナンバーワンになれる事業しかやらない」。エステとフィットネスを共存させた業態は、大手が未参入の「ブルーオーシャン」であり、一気呵成(かせい)に攻め込むことで、1番を取れると考えた。
1号店を表参道にしたのは、おしゃれと高級感が同居する街だからだ。ポイントは、あえて「閑散期」に出店したことにある。
一般的に、エステの繁忙期は4月から。水着になる夏を目指して美しくなりたいという女性が多いからだ。一方、体を鍛えたいという需要は年中ある。エステ×ジムで、どこまで利用者を取り込めるか、見極める狙いがあった。
表参道店の開業を発表し、グランドオープンまでは約20日間。蓋を開けると、エステ閑散期かつ、駅から1本路地を入った立地にも関わらず、初回体験の申し込みは746件を数えた。
体験と言っても、無料ではない。45分間で1000円(税別)を払う必要がある。それでも、初回体験枠は争奪戦となり、開業から2カ月たった今も、体験待ちは300人をキープしている。
表参道店の目標月額会員は、800人。個室の数には限りがあり、利用時間も決まっているため、予約枠には限界がある。さらに、1会員につき月4~5回は通うと考えて、800人が限度とはじき出した。1日に4~5人入会すれば御の字と考えていたところ、1日10~15人のぺースで会員は増え続け、オープン2カ月でほぼ目標会員数に到達した。
際立つのは、初回体験後の入会率の高さだ。実に8割以上が、体験当日に入会を決めた。当日入会で入会金2万円と初回体験料の1000円が無料になり、トレーニングウエアがもらえるという特典もさることながら、集客の原動力となった要因は価格設定にある。
インパクト重視で「月1万円から」
BODY ARCHIの月額利用料は、毎日15時までの利用なら45分コースで1万円、75分コースで1万2000円。「オールデイ」会員なら45分コースで1万3000円、75分コースで1万5000円(いずれも税別)。
この1万円からという料金設定は、インパクト重視で決めた。セルフサービスと言っても、導入したエステマシンは、1台4役をこなせる本格派。脂肪の深くまで集中的に加温する「ダブルラジオ波」や、筋肉に電気刺激を与える「EMS」、肌の奥まで美容成分を浸透させる「ポレーション」、肌を活性化させる「LED照射」の4機能を備え、むくみや冷え、たるみ、固太り、肌荒れといった女性ならではの多用な悩みに対応する。
ネクシィーズグループによると、高級エステサロンで同様の施術をすれば1回2~3万円かかる。「今となっては、正直、(月額1万円台は)安すぎたかな、とも思うが、だからこそ評価されたのかもしれない」(佐藤氏)。
猛スピードで資本を投下へ
実は、「セルフエステ」を掲げる店は、以前からある。思うように広がらないのは、初期投資額が高いからだ。
エステティシャンを雇わなくていい一方、個室の数だけエステマシンが必要になる。例えば、BODY ARCHIの表参道店は21室あるため、マシン代だけで5250万円(250万円×21台)。ここに内装の工事費などが上乗せされる。多店舗展開するには相当な資金力がないと難しい。裏を返せば、一気に資本を投下してシェアを取れば、誰も追随できなくなるだろうと読んだ。
秘策は、LED照明を爆発的に普及させた自社のビジネスモデル「ネクシィーズ・ゼロ」にある。工事費も含めて、ネクシィーズ側がLEDの導入費用を全額負担するという内容で、簡単に言えば「初期投資が完全にゼロになる」プランだ。
照明を白熱電球や蛍光灯からLEDに変えると、電気代は大幅に下がる。下がった分の電気代から、5年間計60回の分割払いで、LEDのレンタル料を返済してもらうのだ。LEDには5年保証を付け、完済した暁にはLEDを導入先に引き渡す。「初期投資をかけずして、コストダウンが図れる」という触れ込みで、飲食店から大型ホテルまで、6年間で約3万6000件の成約をまとめ上げた。
ネクシィーズは、このビジネスモデルをLED以外にも展開し、例えば、1台100万円するような業務用冷蔵庫や、高額な空調設備の導入費用を全額負担。LEDと同様に、分割払いで投資額を回収するスキームで、契約数を伸ばしている。
「パートナー」をフル活用
BODY ARCHIも、この「ネクシィーズ・ゼロ」のスキームで、急拡大を狙う。共同事業パートナーを募り、加盟金はもちろん、内装工事やエステマシンの導入費用、研修費用を、すべてネクシィーズ側が負担。初期費用「ゼロ」で開店できるようにし、営業開始後、店舗の売り上げから5年間60回の分割払いで初期投資額を回収する。パートナー企業に求めるのは、物件を見つけて契約すること。つまり、店舗さえ見つければ、すぐに事業が始められるようにする。
1店当たりの規模は40~50坪(132~165平方メートル)で、従業員は常時4~5人、エステマシンは10~20台。目指すは年内に20店で、3年間で100店まで広げる計画だ。まずは東京から攻め、大阪や名古屋など、主要都市に広げる。ネクシィーズは全国各地に支社を持つため、その機動力を生かす考えだ。
ターミナル駅なら、ドミナント展開も辞さない。「渋谷だと2店あっても足りないだろうし、銀座だと3店あってもいい」。佐藤氏は、表参道店でノウハウを積み上げ、「春までにポンポンと店を出したい」と先を見据える。
「大人かっこいい」を発信。平均年齢は35歳
では、実際にどんな人が利用しているのか。表参道店では20代から50代まで幅広く、平均年齢は35歳だった。75分の長時間コースを選ぶ人が多いのが特徴だ。
美意識が高く、金銭的に余裕が出てくるのは20代の後半から。BODY ARCHIでは、ブランドプロデューサーに、ローソンの「Uchi café Sweets」や渋谷ヒカリエのレストランフロア、東京會舘新本舘を手掛けた柴田陽子氏を起用。ウェブ広告やインフルエンサーを通じて積極的に「大人かっこいい」を発信した成果が出た形だ。
あえて用意した「ビジターコース」
料金プランをよくみると、45分コースと75分コースに加え、「ビジターコース」がある。利用時間は45分間のみで、来店ごとの都度払い。15時までなら5000円、15時半以降なら6000円(いずれも税別)。2回以上通うなら、会員になったほうが元が取れる計算だ。
「ウナギ屋で松、竹、梅とあって、梅を頼む人は少ない。たいていは真ん中の竹を選ぶか、少しお金のある人は松にいく。では、なぜ梅があるのかといえば、真ん中以上を選ばせたいから」(佐藤氏)。ビジターコースの存在が、結果的に月額会員の獲得に貢献している。
好スタートを切ったBODY ARCHIだが、仮に初期費用が6000万円かかったとして、60回払いなら、毎月の支払額は100万円に上る。つまり、それだけの集客力を維持する必要がある。ネクシィーズ側にとっても、投資額の回収に失敗すれば多額の「不良債権」を抱える。信用力が高く、経営力がある企業をいかにパートナーとして囲い込めるか、目利き力も試される。
こうした課題はあるが、見込み通りに全国に広がれば、「セルフエステジム」は一大ブームになるだろう。新たなサブスクサービスとして軌道に乗せられるか。まさにスピード力が鍵を握る。
記事タイトルを「定額制エステ&ジム「BODY ARCHI」 3年で100店舗の大勝負」から「定額制セルフエステ「ボディアーキ」 3年で100店舗の大勝負」に変更しました[2020/9/3 15:30]