需給に応じて価格を上下させるダイナミックプライング(DP)が、クルマ社会の難題を解決する救世主になるかもしれない。慢性的な渋滞緩和に向け、高速道路では、交通量を予測し、料金を変動させる実証実験がスタート。駐車場やタクシー業界でも繁閑差を料金に反映する試みが進み始めた。

高速道路では、渋滞の解消に向けて交通量を予測し、料金を変える実証実験が進んでいる(写真はイメージ。Shutterstock)
高速道路では、渋滞の解消に向けて交通量を予測し、料金を変える実証実験が進んでいる(写真はイメージ。Shutterstock)

 クルマに関連するサービスならどんな繁閑差があるか。高速道路は混雑時に料金を上げることができれば渋滞が緩和されるだろう。駐車場も日中と夜間で料金を変えているところは多いが、曜日・時間帯やイベントの有無に応じてよりきめ細かく変動させる余地がありそうだ。タクシーも雨天などで空車が少ない場合は運賃や迎車料金を値上げ、空車が多い時間帯は値下げすることで実車率を高められる。

 国内の高速道路料金やタクシーの運賃は国土交通省の認可が必要なため、実現には時間がかかる。それでもできるところから実証実験は着々と進んでいる。

交通量を予測して高速料金を値上げ、ダラダラ渋滞が解消

 NECは、高速道路の料金にダイナミックプライシング(DP)を適用して渋滞を緩和する取り組みを進めている。既に、北米のある地域で交通量に応じて高速料金を変動させてデータを収集。AI(人工知能)を活用することでより適切な料金の提示を目指す。同社データサイエンス研究所主任研究員の西岡到氏は、「渋滞による経済損失は深刻な問題。交通量の予測を基に混雑時には値上げし、高速道路への流入量をコントロールすることで、渋滞を未然に防ぐことができる」と説明する。

交通量が多ければ値上げして高速道路利用を抑制、渋滞解消へ
交通量が多ければ値上げして高速道路利用を抑制、渋滞解消へ

 西岡氏がデータを収集した北米の地域は、幹線道路と有料の高速道路が並行して走り、鉄道やバスの選択肢も用意されていて移動需要を分散している。さらに高速道路の渋滞を緩和するために、交通量が増えたら高速料金を随時値上げ、ピークを過ぎたら随時値下げしている。日本国内ではまだ例がない、高速道路におけるDPの先進事例である。それでも混雑時間帯には高速道路で渋滞が発生していた。

 西岡氏はこの道路に約1キロメートルおきにセンサーを設置することで交通量の変化の他、日時、天候、料金推移、有料道路への移行割合、走行速度などを収集した。

 データを収集・分析することで、課題が2つ明らかになった。1つは料金変動のタイミングの問題。交通量が増えてから30分ほど遅れて値上げする事後対処になっていたため、渋滞を防げていなかった。渋滞の原因をつくる車両が安値で高速道路に流入し、渋滞がピークを過ぎて流入を増やしてもよい頃に料金が最高値になるといったチグハグ感があった。

 もう1つの課題は、料金の変化に対するドライバーの反応が状況によって異なること。「料金が上がった際にそれでも高速に乗るかどうか、その判断が同一人物であっても時間帯や曜日で変わってくる」(西岡氏)。午前の交通量がピークとなる通勤時間帯と、午後のピークの帰宅時間帯では、前者のほうが高速道路を選択する人の割合が多い。

 従って、交通量がこの水準に達したら1ドル値上げ、といった料金設定では対応が難しい。過去データから交通量を事前に予測し、交通量が増える見込みの場合は増える前から値上げして増加を抑制する、同じ交通量でも朝なら値上げするが夜ならしない、など、予測に基づいた料金設定が重要になる。

 西岡氏は取得データから、交通需要の予測モデルと、料金変動がもたらす走行速度の変化など状態空間の予測モデルを構築。前者は過去データとして交通量と日時、天気などを機械学習し、後者は交通量と料金、高速への移動率、走行速度などを機械学習した。この両予測モデルを組み合わせることで、走行速度が時速45マイル(時速72キロメートル)を下回らない料金をはじき出す仕組みを作り上げた。

 シミュレーション上の成果ではあるが、高速道路で45マイル未満の走行が続く渋滞状態はほぼ解消され、平均で55マイル(88km)以上の走行が可能になった。現状の料金変動ではピーク時に時速20kmを下回ることもあるだけに、大きな成果だ。さらに料金収入も大幅に増えるという。北米では民間資本の道路が多いため、「収益増もアピールポイントになる」(西岡氏)と実用化に向けて意欲を見せる。

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