
■ムーブメントが起きるメカニズム
一発、大ヒットを当てたい……。商品開発に携わる方なら誰もが抱く思いです。そんな方にぜひ見てもらいたい動画があります。起業家のデレク・シヴァーズによる「社会運動はどうやって起こすか」というTEDトークの名作プレゼンです。
ある野外コンサートでの出来事です。音楽に興奮した、一人の変わりモノのお客が、奇妙な裸踊りを突然始めました。すると、それに触発された2人目の客が、変な踊りをまねしだします。
それを皮切りに、人々が次々に参加し始め、踊り手が増える一方。ひとたび踊りの集団ができると、恥ずかしいことなんてありません。踊らないほうがおかしく、堰(せき)を切ったようにみんなが踊りに加わります。あれよあれよという間に、大きなムーブメントに成長しました。
この出来事から得られる教訓は2つあります。1つは、映像の中でも解説されているとおり、リーダーは1人の変わりモノにすぎず、それをリーダーにしたのは2人目、すなわち最初のフォロワーである、という話です。
素晴らしいバカを見たら、勇気を持ってついていきましょう。一歩踏み出すことが変革という名の大きなうねりをつくる契機となります。
もう1つの教訓は、集団が一定の規模まで成長すると、勝ち馬に乗る人が増え、雪だるま式に集団が大きくなっていく、という話です。様子見していた人も、時流に乗り遅れまいと、多勢にならうようになるのです。これが今回紹介する「バンドワゴン効果」です。
■絶対に失敗しない店選びのコツ
バンドワゴンとは、パレードなどの先頭で行進をリードする楽隊車のことです。それをヒントに、経済学者H・ライベンシュタインが創作した言葉が「バンドワゴン効果」です。「多数がある選択肢を選択している現象が、その選択肢を選択する者を更に増大させる効果」(ウィキペディア)を意味します。バンドワゴン効果が引き起こす現象は、世の中のあちこちで見られます。
一つ例を挙げると、札幌にラーメン横丁と呼ばれる観光名所があります。狭い路地に十数軒のラーメン屋が軒を連ね、味を競い合っています。興味深いのは、長蛇の列で長時間待たされるお店と、ほとんど客のいないお店にハッキリ分かれていることです。
だからといって、いずれも激戦を戦い抜いてきた名店ばかり。味が極端に違うわけではありません(少なくとも私の舌では)。評判が評判を呼ぶバンドワゴン効果が働いているに違いありません。
実際に、旅好きや出張族の間では、「(地元民で)混んでいる店に入れ」「長い列を見たら並んでみよ」というのが鉄則になっています。確かな情報がない中では、バンドワゴンについていくのが最も賢明な選択となるからです。
しかも、有名店だと思って食べれば、前回紹介した「確証バイアス」が少なからず働き、本当においしいと感じます。噂が口コミやネットでどんどん広がり、それがさらにバンドワゴン効果を促進するわけです。
■クリティカル・マスを超えられるか?
ここで多くの方が疑問を抱くのは、「どれくらいの賛同者を集めれば、みんなが雪崩を打って支持するようになるのか?」ではないかと思います。これを超えると一気に支持者が増えるという臨界量(クリティカル・マス)があります。それが分かれば、マーケティング活動や社会運動などにおいて、意図的にバンドワゴン効果を起こすことができます。
残念ながら、臨界量は分野や業界によって異なり、一般的にいくらと言うことはできません。理論的に計算することもできず、経験的に算出するしかありません。
たとえば、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、パソコンなどの家庭用耐久消費財は、普及率が16%を超えたところで一気に普及が加速しました。そうなると、いずれ100%に達するようになります。
経営学者E・ロジャーズの「イノベーター理論」によれば、新しい製品に最初に飛びつくのがマニアックなオタク(革新者:2.5%)です。次に、その反応を見て、新しいものを自慢したがる人(初期採用者:13.5%)が手を伸ばします。彼らがインフルエンサーとなり、さまざまなチャネルで発信することで、商品の価値が世の中に広く伝わります。
そうすると、時流に乗り遅れまいと、バンドワゴンに乗る人(追随者:68%)が殺到するようになります。最後に、新しい物に抵抗を感じる保守派(遅滞者:16%)も乗らざるを得なくなります。
つまり、16%の壁(キャズムの溝)をどう飛び越えるか、初期採用者から追随者への橋渡しが重要な鍵を握っています。そこに知恵を絞るのがマーケッターの大切な仕事となります。
江戸時代末期の「ええじゃないか」もムーブメントに。画像はイメージ=PIXTA■勝ち馬に乗る人ばかりではない
このように、バンドワゴン効果を上手に活用すれば、製品の普及、流行づくり、組織変革、選挙運動、制度の定着、社会運動などが加速できます。ただし、対象によっては逆効果になる場合もあることも、頭の片隅においておきましょう。
世の中には、「みんなが持っているから買いたい」という商品もあれば、「みんなが持っていたら買いたくない」という商品もあります。レア物、期間・地域・会員限定品、オーダーメード品、特別サービスなどは後者に当たります。
なかには、「みんなの手が届かないものが欲しい」と、高価なブランド品や豪華な旅行パックに興味を抱く人もいます。いずれにせよ、バンドワゴン効果ではなく、「みんなと違うものを持ちたい」「優越感に浸りたい」という欲求をマーケティングに活用しなければなりません。
また、バンドワゴン効果とはまったく逆に作用する「アンダードッグ効果」があることも知られています。たとえば、選挙戦において「与党が優位」とマスメディアでアナウンスされるとします。勝ち馬に乗ろうと与党に投票する人もいれば、弱い方を応援しようと野党に投票する人も出てきます。実際には2つの効果のバランスで勝敗は決することになります。
いずれにせよ、我々の行動は周囲の振る舞いに大きな影響を受けています。人と人との相互作用を読み解くことが、大きな集団を動かすのに欠かせないのです。
堀公俊日本ファシリテーション協会フェロー。大阪大学大学院工学研究科修了。大手精密機器メーカーで商品開発や経営企画に従事。1995年からファシリテーション活動を展開。2003年に日本ファシリテーション協会を設立、研究会や講演活動を通じて普及・啓発に努める。著書に「ファシリテーション入門第2版」「会議を変えるワンフレーズ」など。 本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。