米ナイキがID戦略を本格化させた。同社はランニングアプリやECの購買データなどを1つのIDに統合。そのデータに基づき、顧客ごとに適切に情報を出し分ける取り組みを始めた。全世界で1億人が登録する会員を5年で3倍超にまで拡大することを目標に掲げる。

ナイキは2018年12月11日から提供を始めたスマートフォン向けアプリ「ナイキ」を軸に、顧客データを統合したID戦略を本格化させた
ナイキは2018年12月11日から提供を始めたスマートフォン向けアプリ「ナイキ」を軸に、顧客データを統合したID戦略を本格化させた

 「販売促進のためのCRM(顧客関係管理)にとどまらず、トレーニング方法などの情報発信と、達成までの過程で必要な商品提案などで、利用者が取り組むスポーツのゴール達成を支援する」。ID戦略のコンセプトについてナイキのバイスプレジデントデジタルプロダクツ&グロウスのマイケル・マーティン氏はこう説明する。ID戦略で目指すのは“ナイキらしい”顧客体験の提供だ。

 これまでも1つのIDでランニング向けアプリや、トレーニング向けアプリといった複数のナイキのサービスを利用できる体制は整っていたものの、「データ活用という面では一部にとどまっていた」(マーティン氏)。顧客にまつわるさまざまなデータを保有してはいるものの、それを統合的に分析して、CRMに使うような取り組みは、マーケティング巧者として知られるナイキですら十分にできていたとは言えなかった。

先行して提供している他国では「タイムライン」機能の利用比率が高いという
先行して提供している他国では「タイムライン」機能の利用比率が高いという

 新たな戦略では複数のアプリやWebサービスの利用データを統合。「1つのプラットフォームで顧客理解を促進して、顧客が取り組むスポーツの目標の達成を支援していく」(マーティン氏)ことを狙う。その情報発信のプラットフォームとなるのが、ナイキが2018年12月11日に提供を始めたスマートフォン向けアプリ「ナイキ」だ。

 このアプリはネット通販を使いやすくする、いわゆるECアプリだ。カテゴリーから商品を検索したり、キーワードで検索したりして商品を探して購入できる。これだけ見れば、単に「物を買えるアプリ」。だが、肝となるのはコンテンツを配信する「タイムライン」機能だ。利用者が関心のあるスポーツや、そのスポーツのトッププレーヤーなどのコンテンツを配信する。

 実際、「ECが機能の中心ではあるが、先行して提供している他国では、コンテンツが配信されるフィードがよく利用されている」とマーティン氏は説明する。このコンテンツの配信の最適化に、ナイキが展開するランニングなどのアプリのデータを活用する。

日本独自のコンテンツ制作チーム

 配信を最適化するうえで、アプリの利用開始時に利用者に関心のあるスポーツや、好きなナイキが展開する他ブランドなどについてアンケートを実施する。また、ランニングアプリの走行記録などは、ナイキならではのデータとなる。それらのアプリの利用者であればデータを連携して、コンテンツの最適化に活用する。

 ECのCRMは購入金額などで優良顧客を判別するが、ナイキの場合は「スポーツに対して、どれぐらい熱意を持って取り組んでいるかといった視点で顧客をセグメント化して、情報配信に活用する」(マーティン氏)のが特徴だ。

サッカー選手の長友佑都選手のお薦め商品を紹介するなど、日本人選手のコンテンツも制作して配信する
サッカー選手の長友佑都選手のお薦め商品を紹介するなど、日本人選手のコンテンツも制作して配信する

 例えば、過去にECで購入したランニングシューズを所有していて、毎日アプリで走行記録をしている利用者がいるとする。その利用者がアプリで目標に設定していた走行距離を達成した、そんなときに新しい限定のランニングシューズをお薦めして、そのまま店舗での取り置きを受け付けるといった具合だ。このようにタイミングよく、手を差し伸べるようにコンテンツを届けることで、心地よい買い物体験の提供を狙う。

 コンテンツは全世界向けに制作したものを日本語に翻訳して配信するだけではなく、国ごとに制作チームを設けて独自のコンテンツを制作して配信していく。日本でもトップアスリートが薦める商品といったコンテンツが配信されている。今後はトレーニングの手助けになるような動画コンテンツなども配信して、継続的な関係性の構築につなげたい考えだ。

NIKKEI STYLE

この記事をいいね!する