なぜQRコード決済サービス事業者は数百億円、数千億円を投じて陣取り合戦を繰り広げるのか。そこには数千億円、数兆円規模に上る3つの市場が目前に見えているからだ。QRコード決済サービスがもたらす大変化の影響をひもとく。

キャッシュレス化の進展でATMも台数の減少が見込まれる(c)Motortion Films/Shutterstock
キャッシュレス化の進展でATMも台数の減少が見込まれる(c)Motortion Films/Shutterstock

 国が示すキャッシュレス化の目標は2025年に40%である。持ち家の帰属家賃を除いた家計最終消費支出は、内閣府の推計によれば、17年で約238兆円に達する。単純に、この40%がキャッシュレス化されたと仮定すると、約95兆円がキャッシュレス決済によって支払われることになる。

 決済手数料が1%の場合は9500億円、3%の場合は2兆8500億円という規模の市場が、そこに現れる。このキャッシュレス化をけん引する切り札となるのは、QRコード決済サービスになる可能性が高い。店舗側の導入コストが格段に低いため、全国津々浦々までキャッシュレス化を進めることができるためだ。

 QRコード決済が普及すれば、キャッシュレス化の比率をさらに引き上げることも可能だろう。そうなれば、当然、決済手数料の市場規模も膨れ上がる。決済手数料を収益源とみなすプレーヤーにとっては極めて大きな市場である。サービス提供事業者だけでなく、ゲートウエイ事業者まで目の色を変える理由はここにある(ゲートウエイ事業者については、関連記事「QRコード決済の周辺事業者に商機 サービス乱立で小売店に負荷」を参照)。

日本も2~3社に絞り込み?

 もっとも、25年まですべてのサービス提供事業者が生き残っているとは考えにくい。先を行く中国では、サービスの本格開始から3年ほどで、アリババグループ傘下のアント・フィナンシャルサービスグループが提供するスマートフォン決済アプリ「支付宝(アリペイ)」と、テンセントが提供する同アプリ「微信支付(ウィーチャットペイ)」の2つに収れんした。日本でも全国ブランドとして生き残るサービス提供事業者は2~3社になるとみられている。だからこそ今、各社が厳しい競争を続けているわけだ。

 莫大な資金が投じられる理由はそれだけではない。QRコード決済サービスが事業者にもたらす収益は、何も決済に伴う手数料だけではないからだ。

 ユーザーがリアル店舗でQRコード決済サービスなどのキャッシュレス決済を利用すれば、個々のユーザーがいつ、どこで、何を買ったかというデータがサービス提供事業者の元に蓄積される。このデータを分析すれば、サービス提供事業者は、ユーザーの好みや、どんな時期にどんな商品やサービスを欲する傾向にあるのかなどを把握し、1人ひとりのユーザーの決済アプリなどにレコメンド情報を発信し、購入を促すことが可能になる。この情報を、商品やサービスを販売する企業に提供し、同じく決済アプリ上などに広告を掲載できれば、サービス提供事業者は莫大な広告収入を得ることが期待できるわけだ。これが期待される2つ目の市場だ。

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