STORY 東京海上日動火災保険 vol.22

女性リーダーのゆりかご、自信と勇気を育む「女志塾」を主宰

東京海上日動火災保険 長野支店 業務グループリーダー
船坂 奈津子さん

女性社員が意識とやる気を高め、自律的にキャリアを築いていけるように――。「信州女志塾」はそんな目的で東京海上日動火災保険の長野支店に2017年度に創設された。活動2年目の今年度は県内各地にある11の課・支社から女性社員19人が参加する。塾を主宰するのは長野支店業務グループリーダーの船坂奈津子さん(45)。「女性社員がもっとリーダーを目指しやすい文化と風土をつくっていきたい」。自らのこれまでのキャリア経験が後進の育成へと駆り立てる。

仕事を任せられ、自分で創意工夫する面白さを実感

「結婚したら女性は退職する」。そんな雰囲気がまだ残る1994年に船坂さんは東京海上日動に入社した。地元の長野県内で働くエリアコース社員。自らも時代の空気の中にあって、当時は会社勤めを長い歳月続けるとは思っていなかった。だが会社で仕事を重ね、多くの人と出会ううちにキャリアに対する意識は徐々に変わっていく。

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船坂奈津子さんは長野支店業務グループが会社人生の振り出し。25年目のいまは同グループのリーダー(課長職)を務める

最初の配属先は長野支店業務グループ。「仕事が面白い」と初めて思ったのは入社4~5年目の頃だ。企業にダイレクトメール(DM)や電話で連絡を入れ、営業のアポイントメントを取るチームの仕事だった。このときの上司に「自分で考えて工夫してやってごらん。責任は私が取るから」と多くを任せられた。それまではマニュアルに沿って対応する受身の仕事がほとんど。自ら考えてDMのチラシを作成したり、案内する保険商品を選んだりと、主体的に取り組む仕事は初めてだった。「自分で創意工夫するのが楽しかった。信頼され、仕事を任せられる喜びを感じた」

入社以来、同じ部署で営業推進や支店長秘書などの業務を続けていたが、12年目に転機が訪れる。営業課への異動だ。当時、長野支店には女性の営業職はいなかった。「業務ばかりを担当してきた私に営業の仕事は無理」と弱気の虫が顔を出す。ただ1年ほど前から確定拠出年金の営業支援に携わり、法人顧客を訪ねる経験をしていた。「できなかったら仕方がない。まずはやってみよう」と腹をくくった。

徹底した指導に感謝、「仕事の成果に男女は関係ない」

営業の指導役は、チームの上司の男性社員。「服装のこと、名刺交換、着座の位置など営業のイロハから丁寧に教えてもらった。特にお客様とお話しする内容については毎回細かく指導してもらい、とても鍛えられた」と振り返る。徹底した指導のおかげで営業職に対して抱いていた心理的な壁はすぐに乗り越え、むしろ顧客企業を訪ねて経営者と色々な話をする楽しさを感じるようになった。「営業の醍醐味を教わりました」

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営業への異動は仕事内容の違いから「まるで転職したようだった」と振り返る。しかし、すぐに営業職の醍醐味を知った

営業という新世界に飛び込み、仕事がますます面白くなった船坂さんは損害保険の営業担当として徐々に力を付けていく。営業成績が上がるようになると、異動のときに抱いた不安は、やがて自信に変わっていた。「会社に機会を与えられ、周囲の多くの方々に育てていただいたから」。そして、こう確信した。「仕事の成果に対しては女性・男性は関係ない」と。

営業職をほぼ9年続けた後に、次の転機が訪れる。東京への転勤だ。船坂さんは本来、転居を伴う転勤がないエリアコース社員だが、長野以外での勤務経験が自らの成長につながると考え、挑戦することを決めた。周囲からも「異動は成長につながる」と言われ、自らも前回の営業への異動でそう実感していた。

東京への転勤、マネージャーの道

2014年に東京本店に異動し、関東甲信越にある8支店の業務を支援する部門に配属された。本店の商品企画や営業推進の部門と8支店とを橋渡しする役割を担当。2年目に担当課長、3年目には課長となり、組織のマネージャーとして新たなキャリアの道を歩み始める。

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「東京での勤務体験は有意義な3年間だった」。社内人脈が広がり、マネージャーとして多くを学んだ

所属したのはエリア担当役員に接することが多い組織。ここで「会社の中の意思決定の仕組みを学べたのが大きかった」という。さらに担当する8支店が行っているそれぞれの組織運営を勉強する貴重な機会にもなった。「長野支店の中にいるだけでは気付けないことを多く学んだ。特にマネジメントが組織全体の力を大きく左右することを学ぶことができた」と話す。

船坂さんも以前の営業時代は一人のプレーヤーとして「自分が成果を上げられるように成長したい」との思いが強かった。しかし東京本店で多くのマネージャーの仕事を見ていくうちに、そうした考えや意識だけではチームの力としては限界があること、組織がまとまらないことに気付かされた。当時の上司に教わったチーム運営の肝は「お互いが認め合う、理解し合う、長所を引き出し合う、見る先は常にお客様」という考え。それをマネージャーとして心がけるようになった。

女性社員の意識改革、「自分たちで会社を変えていい」

17年春に長野支店に戻ると、当時の長野支店飯田支社の小林尚子支社長と一緒に地域の女性社員を対象にした研さん会「信州女志塾」を立ち上げた。東京時代に関東甲信越ブロックの女性活躍推進の会の事務局を担当。その経験を生かして「長野でも女性社員が生き生きと活躍・成長できる環境を醸成していこう」という狙いだ。船坂さん自らが会社に機会を与えられ、鍛えられ、キャリアの意識が高まっていった経験があるからこそ、後進の社員が早くキャリアマインドを持てるように支援したいとの思いがあった。

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10月25日に松本市で開催した「信州女志塾」の集まり。メンバーが所属部署の働き方改革の課題や取り組みに関する進捗状況などを発表した

最初に取り組んだのは、女性社員の視座を変えること。船坂さんも若い頃がそうだったように、与えられた仕事はきちんとこなすが、周囲や組織全体に対して自分の意見を言うのは遠慮する控えめなタイプが長野には多いという。しかし「みんな心に秘めているものがある」。だからこそ女志塾では、それを積極的に聞いて引き出すことに努め、さらにメンバーが勇気を出して周囲に提案や働きかけができる自発性を養う研修に力を入れた。

例えばメンバーは、自分の上長の立場になって所属部署をよくするための課題と解決策を考え、提言する。組織内のコミュニケーションの改善に加え、今年度は働き方・働く時間の変革をテーマに据えた。また、担当役員である植村哲常務との対話の時間を設け、メンバーが新たな気付きを得られる機会とした。「会社からの制度や助言を待つだけでなく、自分たちが会社や組織を変えていいと思ってもらいたい」と船坂さんはいう。

県外で活躍する女性リーダーを招いた講演はメンバーに勇気を与えた。育児をしながら働く入社17年目のメンバーの須田奈美さんは「社内には育児をしてリーダーになった方も多くいることに気付き、自信になった。後輩に自分も何かを残したいと思った」という。メンバーの所属長には、サプライズでメンバー宛に手紙を書いて渡してもらい、会社としての期待感を伝えるようにした。長野支店長をはじめ、支店の全マネージャーのサポートによって女志塾は支店全体の取り組みとなった。

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長野支店業務グループでは今年度から毎月の昼食会を始めた。メンバー間のコミュニケーションの促進に役立っているという

「日本で一番『人』が育つ会社」を地域で実践

女志塾のメンバーには様々な変化が起き始めている。「同じ職場の社員がモチベーションを持って仕事ができているか、目を配るようになった。女志塾は自分自身を見直す機会になっている」と話すのは長野支店の島田小美枝さん。また、ある支社のメンバーは担当業務の分担や、営業と事務の連携など組織改善の具体策を所属長に積極的に出すようになったという。

「日本で一番『人』が育つ会社」を標榜する東京海上日動。船坂さんは「これまで出会った多くの上司、先輩、同僚に育てていただいた経験があるから、自分もメンバーをサポートしたい」との思いを持って、いまは「人を育てる」ことにマネージャーとしての軸足を置いている。2018年4月に業務グループのリーダーになったときには部下全員に「新しい仕事を任せたい」と宣言した。入社6年目の松永菜摘さんが新たに与えられたのは長野エリア全体の予算管理業務。「これまでリーダーがやっていた仕事を任せてくれた。きちんと支援もしてくれ、部下への期待を言葉で伝えてくれる。頑張ろうと思わせてくれる」とモチベーションは高い。

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「メンバーが生き生きと楽しく働ける職場を作りたい」。マネージャーとして理想の姿を追い求めている

船坂さんが目指す理想のチームは「ビジョンや目的を共有し、それに向かってメンバーがコミュニケーションを取りながら、思いをひとつにしていく組織」。女志塾で学ぶ女性社員たちが、そうしたチームづくりに貢献し、あるいはチームを率いる人材になることを願っている。そして自らも成長し続けることが欠かせないと上を向く。「メンバーが取り組みたいことができるように支援し、向かっているゴールに最短でたどり着けるように道を照らしていくことが大切」。そんなマネージャーを目指している。

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