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テレビとスマホ、落語はどっちが笑える?

立川吉笑

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NIKKEI STYLE

テレビ番組に「超入門!落語 THE MOVIE」(NHK)というのがある。ざっくり紹介すると、落語家の語りに合わせて、役者が当て振り、というか「口パク」のような感じでお芝居する。画面には落語の登場人物を演じる俳優たちや情景が映るが、音は落語家の声のみ。映像に合わせて音声を入れるアニメの逆といえば、わかりやすいかもしれない。今回はこのユニークな番組を取り上げながら、落語の映像化について考えてみたい。

映像に入る前に、落語家と落語を演じる俳優の違いに触れておきたい。俳優が落語家役をつとめるドラマもあるし、近ごろは俳優や声優が「落語会」を開いて披露するケースも増えている。

この両者、「落語家による落語」と「役者による落語」では何が変わるかというと、テンポ、つまりは「間」だ。単純に述べれば、落語家の方がテンポが早い。俳優の落語を見て、最も違和感を感じるのはこのテンポ。想像するに、相手の台詞(せりふ)を聞き、受け止めた上で、自分の台詞を発することを徹底的に訓練されているから、そうなるのだろうと思う。

ところが落語家は必ずしもそんな会話の組み立てをしない。もちろん、ある登場人物の言葉を受け止めてから別の登場人物に喋らせることも多々あるけど、そこまで言葉尻を粒立てずにパーパー流れるように会話を進行させることが少なくない。上手い人の語り口は、会話のキャッチボールというよりも流れる歌のように進む。片方のセリフを言い終える前に、首を反対方向へ切って相槌(あいづち)を打つことさえある。一人で全ての役をこなすから無理なく表現できるのかもしれない。

そこで「落語 THE MOVIE」。この番組は通常の芝居とは違い、落語家本人の間の取り方が、そのまま生かされているのが特徴だ。これを落語家や落語ファンがどう見ているのかについては、人それぞれとしか言いようがないが、少なからず聞こえてくる定番の感想に「あんなのは落語じゃない」「役者の演技は不要で、高座だけを放送すればいいのに」というのがある。この種の意見は、放送中にSNS(交流サイト)でリアルタイム検索をすればじゃんじゃん出てくる。

伝統芸能としての一面を持つ落語には、当たり前だけど伝統性がある。型やルールと言い換えてもいい。江戸時代から脈々と続いてきた落語には古参のファンがいる。膨大な知識を持ったファンや保守本流のファン。自分にとっての落語像が明確にあって、それ以外は邪道と線引きするファン。そういった方からすると、自分が愛している古き良き落語像こそが落語で、その枠からはみ出たものは全て良くないもの、むしろ敵、みたいになってしまいがちだ。

僕はというと、この番組は「よくできたシステムだなぁ」と好意的にみている。

DVDよりCDが面白いワケ

数年前から僕はあることについて考えてきた。それは「落語はDVDで見るよりも、CDで聴いた方が面白く感じるのはなぜだろう?」ということ。ネタによって微妙に変わるとはいえ、基本的に落語はDVDで見るよりも、CDで聴く方が楽しみやすい。生で見るのが一番楽しいのは当然として、なぜDVDよりもCDの方が良く感じるのだろうかと、不思議でしようがなかった。

 たどり着いた自分なりの結論は、DVDとCDに詰められる情報量に差があり、落語とDVDとの相性はCDほどよくないということだ。落語は着物のおじさんが左右を向きながら、それほど声色を変えることなく、あまり動くこともなく喋るだけの表現形式だ。つまり視覚的に発信される情報量はとても少ない。そんな落語をDVDにするとどうなるか。DVDに本来詰められる情報量に比べて落語の発信量が少なすぎる。その差がスカスカ感や退屈さにつながるのではないか。DVDに比べて情報量が少ないCDは、落語の発信量とうまくバランスが取れるのではないか。

思えば、数十年前。メディアの中心がラジオだった時代。祖母によるとラジオからたくさんの落語が流れてきたそうだ。そして何人かの落語家がいわゆるスターとしてメディアの中心で活躍していたらしい。それがテレビの時代に変わり、落語から漫才へ、そしてもっと視覚情報の多いコントへと「お笑い」の中心が移り変わっていった。

座布団に座ってボソボソ喋る落語よりも、舞台狭しと動き回って複数人がボケたりツッコンだりする漫才やコントの方が、目で見て飽きないのは自明だ。

落語の発信情報はDVDにするには物足りないとの仮説が正しいとすると、落語を映像化する際に何かしら足りない情報を加えればよいという結論にたどり着く。例えば談志師匠は「落語のピン」という番組で、それまでの落語映像ではありえなかった位置から高座を撮影して情報量を追加しようとされた。またある人は、例えば「鰍沢(かじかざわ)」という雪山が舞台の落語をやるときに、吹雪の山を背景に投影することで情報量を足そうとされた。

この手の工夫の難しいところは、そもそも落語の神髄が「省略」と「補完」にあることだ。枯山水や俳句と同じで、落語は発信する情報を省略し制限することで、逆に観客の想像力をかき立て、それぞれの脳内でイメージを補完してもらう芸能だ。それなのに、普通は想像力に委ねる雪山の背景を可視化してしまっては本末転倒にもみえる。「落語 THE MOVIE」も、従来の落語に「役者の演技」という情報を追加した企画だ。だから落語が持つ省略の美学に魅せられている落語通は「あんなのは落語じゃない」と酷評することになる。

それでも、だ。例えば15分の落語をテレビでそのまま流したところで、最初から最後まで通して見られる視聴者はごく一部ではないか。僕自身も普段から師匠方の高座映像をたくさん見るようにしているけど、それは勉強のためであって、娯楽として見た場合、正直言って退屈さが勝つことが多い(個人的な楽しみ方は、散歩や掃除をしながら耳だけで落語の世界に没頭することだ)。そんな僕が、あの番組を初めて見たとき、最後まで退屈さを感じることがなかった。情報量が増えるとこうも見やすくなるのかと、ビックリした記憶がある。とくに初心者だったら、落語のテンポそのままに情報量が増えた番組は、見飽きず、親しみやすいからプラスだ。

もちろん、少し落語に馴染んできたファンには、落語家の高座そのままに省略の美学を堪能できるプレーンな形式へも需要がある。つまりは落語を映像化する際には、どの視聴者層をターゲットにするかを定めて、情報量を調整すれば効果的になる。

「縦型落語動画」に可能性

さて、もう少し僕の考察におつきあい願いたい。

ラジオの時代からテレビの時代へメディアが変わりゆく中で、求められるコンテンツが落語から漫才、コントへと変わっていった。さらに現在ではテレビからネットへ、例えばスマホへとメディアが移り変ろうとしている。この数年でユーチューバーというこれまでになかった表現者が子供たちの憧れの職業にランクインしてきたように、スマホで動画を見るという行為が一気に身近になっている。

 大画面が前提の2000年代のテレビバラエティーでは、「ひな壇芸人」を使った番組づくりが一世を風靡した。司会者の横にズラッと10人くらいのゲスト芸人が座り、ワーワー喋りあう。この形式は、テレビの「16:9」という横長の画角にうまく重なる。

それがスマホの「9:16」という縦長の画角が主流となったらどうだろう。もちろんスマホを横に寝かしたら「16:9」の画角になるとはいえ、視聴者にひと手間要求する横長の「ひな壇芸人」的な映像づくりがずっと続くだろうか。ただでさえスマホの画面はテレビと比べて圧倒的に小さい。大勢がわちゃわちゃする、というのは大画面に適していただけで、スマホにはスマホに合ったコンテンツがあるのではないか。もしかしたら大勢が同時に映り込むモノから、登場人物が減って、数人でじっくり話すようなコンテンツが増えてくるかもしれない。

そんなことを考えているとき、ふと「9:16」の縦長の画角って、何かに近いと気づいた。そう、正座している落語家はぴったり「9:16」の画角に収まる。そして動きが少ない落語家は、画面からはみ出すことがまずない。

スマホと相性がいい「縦型落語動画」。大げさだが、ラジオの時代のように、落語家が、そして落語という形式が、時代に祝福される機会が到来しつつあるのかもしれない、なんて思ってしまう。

いつもよりも長々と書いてきたが、一番重要な情報を最後に。落語の映像化に関する考察の諸々をイベントで発表することになりました。11月18日14時30分から、渋谷ユーロライブにて。「立川吉笑説明会~9年目の吉笑~」。ぜひご来場をお待ちしております。

と、まさかの告知オチという今回の「らくご、虎の穴」でした。

立川吉笑

 本名、人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。180cm76kg。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。古典落語のほか、軽妙かつ時にはシュールな創作落語を多数手掛ける。立川談笑一門会やユーロライブ(東京・渋谷)での落語会のほか、水道橋博士のメルマ旬報で「立川吉笑の『現在落語論』」を連載する一方、多くのテレビ出演をこなすなど多彩な才能を発揮する。著書に「現在落語論」(毎日新聞出版)

これまでの記事は、立川談笑、らくご「虎の穴」からご覧下さい。

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