3000人の避難所に2000人分の食料 配るべきか否か第5回 対立解消アプローチ

そうやって、互いの主張の奥底にある、本当のこだわりや大切にしているものを見つけ出すようにします。一般的に、意見よりニーズのほうが普遍的であり、誰にも理解されやすく共感も得られやすくなります。

共通の問題を見つけ出そう

その上で、問題を再設定します。配るか配らないかといった論点(イシュ-)では折り合いがつきません。両者が共通で達成したいテーマを設定するのです。

ここで目指すのは、意見を両立させることではなく、双方のニーズを満たすことです。意見は相反していても、ニーズなら両立できるかもしれません。「どうやったら混乱を起こさずに社会的弱者に食料を届けられるか?」といったように。これなら、両者が折り合える新たなアイデアが出てくるかもしれません。こうやって、「解けない」問題を、「解ける」問題に転換するわけです。

ここまでくれば後はアイデアです。新たに設定した問題の解決策をブレーンストーミングしていきます。

配る・配らないというのは、問題解決の代替案(オプション)の一つにすぎません。「被災者を信じて、自己申告した人にだけ配ろう」「被災者の中で医療関係の人を探し出して、その人が認めた人にだけ配ろう」といった、双方のニーズを満たす方法(建設的な提案)を考えていきます。

ここで大切なのは思い込みを緩めることです。「住民に任せると大変なことになる」「医療関係者がこの場にいるはずがない」といったものはすべて勝手な思い込みです。一般的にはそうであっても、そうでないかもしれません。

特に、こういう緊急事態が発生したときは、平時の常識は通用しません。当たり前や常識を疑うことで新たな解決策が見つかります。その中でベストな解決策を選びとるようにします。

メンタルモデルが悪循環を生み出す

ジレンマの中にはやっかいなものがあります。相対している要素が循環(ループ)構造になって抜け出せないというものです。

たとえば、企業の業績が悪化したので人員削減を断行したとしましょう。当面はそれで業績が上向くかもしれませんが、ノウハウの喪失やモチベーションの低下を招き、長い目では業績に悪影響を及ぼしかねません。そうなると、またリストラをせざるをえなくなり、悪循環に陥ってしまいます。個々の要素ではなく、構造そのものに問題があるのです。

実は、組織や社会で起こっていることは、単純な因果関係で表せるものは少なく、ほとんどは原因と結果がからみあった循環構造をなしています。

いわゆる「負のサイクル」です。つまり、「問題とは悪循環である」と定義することもできるのです。そこから抜け出ないと真の問題解決になりません。

この解決のためには「システム思考」という手法が知られており、構造を打ち壊すアイデアを生み出すことで解決を図ろうとします。そのもとになる考え方だけ紹介しておきます。

私たちは、つい実際に見えている目の前の出来事にとらわれがちです。事実をとらえることは大切ですが、その裏にあるパターンやトレンドを見ることが、問題の本質を見つけるために欠かせません。どんなことが繰り返されているか、どんな傾向や変化が見て取れるかを考えるのです。

同じパターンが繰り返されるのは、それを引き起こす構造があるからです。構造的な問題がパターンやトレンドに影響を与えているのです。

その構造をつくりあげるもとになっているのがメンタルモデル、すなわち物事の前提となる考え方です。前提となっている信念や価値観、ひいては思い込みが問題をつくりあげているわけです。

それを壊さないと、構造もパターンも変化させられず、ひいては出来事がよい方向に変わらなくなります。これについては、次回に詳しく解説をしていきます。

(「日経Bizアカデミー」の記事を一部再構成)

堀公俊
日本ファシリテーション協会フェロー。大阪大学大学院工学研究科修了。大手精密機器メーカーで商品開発や経営企画に従事。1995年からファシリテーション活動を展開。2003年に日本ファシリテーション協会を設立し、研究会や講演活動を通じて普及・啓発に努める。著書に「問題解決フレームワーク大全」「会議を変えるワンフレーズ」など。
今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら
注目記事
今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら