KDDIが2018年7月12日に発表した、デザイン携帯電話「INFOBAR」の最新モデル「INFOBAR xv」が話題となっている。15年前に初登場したINFOBARを、スマートフォンではなく携帯電話で再登場させたものだが、その人気ぶりから見えてくるのは「ケータイ懐古」の高まりである。

3年ぶりの新機種となった「INFOBAR xv」。定番の「NISHIKIGOI」に加え、「NASUKON」と「CHERRY BERRY」の3色が用意される。写真は18年7月12日のauオリジナル新端末に関する説明会より
3年ぶりの新機種となった「INFOBAR xv」。定番の「NISHIKIGOI」に加え、「NASUKON」と「CHERRY BERRY」の3色が用意される。写真は18年7月12日のauオリジナル新端末に関する説明会より

深澤直人氏が手掛けた3年ぶりのINFOBAR

 携帯電話にデザインの概念を取り入れ、大きな注目を浴びたKDDIの「au Design project」。その中でも特に人気を博した「INFOBAR」が誕生15周年を迎えるに当たり、KDDIは18年秋に、同プロジェクトの新機種「INFOBAR xv」を発売する。

 新モデルのデザインは、初代INFOBARと同じプロダクトデザイナーの深澤直人氏が担当。INFOBARはこれまでフィーチャーフォン、スマートフォンを含め5機種が投入されてきたが、15年に発売された「INFOBAR A03」以来、約3年ぶりの新機種だ。

INFOBAR xvはフィーチャーフォン

 INFOBAR xvは、スマートフォンではなくフィーチャーフォンとなっている。外観は03年発売の初代INFOBARや、07年発売の「INFOBAR 2」に近く、縦の長さも両機種と同じ138mmだ。

 またINFOBARの特徴である、3色の大きなボタンが目を引くデザインも健在。ただし、ボタン部分のフレームがなくなり、よりすっきりしたデザインとなった。かつては技術的に難しかったフレームレステンキーだが、技術の進歩によって、より理想に近いデザインを実現できたとのことだ。

初代「INFOBAR」(左)と「INFOBAR 2」(中央)との比較。ディスプレイやボタンなどは変化しているが、縦の長さは変わっていない。写真は18年7月12日のauオリジナル新端末に関する説明会より
初代「INFOBAR」(左)と「INFOBAR 2」(中央)との比較。ディスプレイやボタンなどは変化しているが、縦の長さは変わっていない。写真は18年7月12日のauオリジナル新端末に関する説明会より

 フィーチャーフォンであるINFOBAR xvではスマートフォンとの2台持ちも想定しており、スマートフォンと連携して「Siri」や「Googleアシスタント」などの音声アシスタントを呼び出せる機能など、時代に合わせたさまざまな機能が搭載されている。

 一方、防水やFeliCa(非接触型ICカード)などには非対応で、充電用の端子も最近の主流であるUSB Type-Cではなく、Micro USBが採用されている。また、ブラウザーや「LINE」は利用できるものの、スマートフォンのようにアプリを追加することはできない。

ファンの後押しを受けて発売に

 KDDIはなぜ、新しいINFOBARをスマートフォンではなく、フィーチャーフォンにしたのだろうか。そこにはユーザーの声が大きく影響している。

 KDDIは、au Design projectの足跡を振り返るイベント「ケータイの形態学 展 - The morphology of mobile phones -」を17年7月に開催したほか、17年3月からはユーザー投票による「auおもいでケータイグランプリ」を実施した。それらの結果、INFOBARの支持が非常に高かったことを受けてINFOBAR xvの開発に至ったのだという。

「auおもいでケータイグランプリ」の投票でもINFOBAR、INFOBAR 2が1、2位を獲得するなど、今なおINFOBARが高い人気を誇ることが示されたという。写真は18年7月12日のauオリジナル新端末に関する説明会より
「auおもいでケータイグランプリ」の投票でもINFOBAR、INFOBAR 2が1、2位を獲得するなど、今なおINFOBARが高い人気を誇ることが示されたという。写真は18年7月12日のauオリジナル新端末に関する説明会より

 今回のINFOBAR xvは、かつてINFOBARを利用していたファンがターゲットということもあり、スマートフォンではなくフィーチャーフォンとなった。とはいえ現在と15年前とでは、技術や部材などさまざまな部分で大きな違いがある。

 先述したフレームレステンキーのように、技術の進歩によって実現できた部分もあるが、一方で初代INFOBARの2型ディスプレーのように、高品質な部品の製造が終了していたケースもあったという。そのためINFOBAR xvには3.1型のディスプレーが採用されている。

ファンの反響を受けてクラウドファンディングも

 このINFOBAR xvの発表後、筆者が驚いたのは反響の大きさである。実際、KDDIの発表直後から、Twitterの「トレンド」に「INFOBAR」が入るなど、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)でも関心を寄せる人が多かったのだ。

 今回のINFOBAR xvは、KDDIの新製品の1つというよりもINFOBARのファンアイテムとしての要素が強く、それが注目を浴びた要因ではないかと筆者はみている。

 今秋の発売までにはまだ時間があることから、KDDIはオリジナルグッズがもらえるクラウドファンディング「新・ケータイ INFOBAR xv を応援して、名前を刻もう。」を実施中だ。出資額は3240円(税込み)から1万800円(同)まで4つのコースが用意されており、コースによってINFOBAR xvのクレジットタイトルに名前を残す権利を得られたり、限定の専用ケースを入手できたりする。

ファンに向けたクラウドファンディングも実施。出資額に応じて、端末内のクレジットタイトルに名前が入るなどの権利が得られるという。写真は18年7月12日のauオリジナル新端末に関する説明会より
ファンに向けたクラウドファンディングも実施。出資額に応じて、端末内のクレジットタイトルに名前が入るなどの権利が得られるという。写真は18年7月12日のauオリジナル新端末に関する説明会より

世界的に広がるケータイ懐古

 INFOBAR xv人気は、1つの大きな潮流が起きていることを示すものだと言うこともできる。携帯電話へのノスタルジーがビジネスになりつつあるのだ。

 日本初の携帯電話が誕生してから約30年、モバイルインターネットの礎となった「iモード」が登場してから約20年、そして日本で「iPhone」が発売されてから約10年……。これだけの時間を経たことにより、かつて最先端の携帯電話を使いこなしていた若者も“大人”になり、かつての携帯電話に郷愁を感じるようになってきたのだろう。昔を振り返るユーザーが増えたことが、INFOBAR xvの発売につながったと言っていい。

手に持ったところ。技術進化によってボタン部分のフレームがなくなり、よりデザイン性が高められている。写真は18年7月12日のauオリジナル新端末に関する説明会より
手に持ったところ。技術進化によってボタン部分のフレームがなくなり、よりデザイン性が高められている。写真は18年7月12日のauオリジナル新端末に関する説明会より

 実は、同様の動きが海外でも起きている。かつて世界最大の携帯電話メーカーだったノキアのブランドライセンスを獲得したHMD Globalが、ノキアの携帯電話「Nokia 3310」「Nokia 8810」などの復刻モデルを発売したところ、大人気となったのだ。

 デバイス、インフラ、コンテンツなど、今後もさまざまな面で携帯電話の進化は続くだろう。だがその一方で、足を止めて過去を振り返る人々が出てきたのは、携帯電話業界にとって大きな変化だと筆者は感じている。今後もさまざまな形で、携帯電話の過去を振り返る取り組みが増えてくるかもしれない。

NIKKEI STYLE

この記事をいいね!する