天才外科医+群像の躍動 『ブラックペアン』は集大成医療ドラマは時代の鏡(下)

社会が求める理想を医療ドラマに体現した
社会が求める理想を医療ドラマに体現した

『アンナチュラル』は、医療ドラマでは比較的新しい「法医学」と呼ばれるジャンルの作品だ。とはいえ日本では、古くは名取裕子演じる法医学者・二宮早紀が活躍する『法医学教室の事件ファイル』(テレビ朝日系)が1992年と1993年に連族ドラマとしてスタートし、その後、単発で長期シリーズ化されるなど、同分野に限ってはアメリカより先行して、日本で開拓された感がある。

1998年には、脚本家・井上由美子の出世作となった『きらきらひかる』(フジ系)も登場した。深津絵里演ずる新人監察医をはじめ、松雪泰子・小林聡美・鈴木京香らが演じる4人の女性を中心に描かれる法医学ミステリー。スタイリッシュな演出も評判を呼び、スマッシュヒット。原作から大きく逸脱して、独自の世界観を作り上げている。

21世紀に入ると、アメリカでは被害者の骨から証拠を見つけ、事件を解決に導く法医学者・ブレナン博士の活躍を描いた異色の『BONES』が登場した。同ドラマも好評を博して12シーズンまで作られ、昨年にシリーズが完結したのは記憶に新しい。

■『アンナチュラル』の今っぽさ

そして今年に入り、ギャラクシー賞を受賞した『アンナチュラル』である。思うに、脚本家の野木亜紀子が描く珠玉のプロットや小気味よい台詞もさることながら、同ドラマで特筆すべきはその世界観ではないだろうか。物語は基本、三澄ミコト(石原さとみ)と臨床検査技師の東海林夕子(市川実日子)、それに医大生でバイトの久部六郎(窪田正孝)の3人の、ほのぼのしたやりとりで進む。

普通、医療ドラマというと、封建的な組織や熾烈な派閥争い、虐げられる女性看護師みたいなシビアな世界が描かれがちだけど『アンナチュラル』にそういうシーンは一切出てこない。基本、職場のジェンダー意識は高く、時おり入るコメディ要素で、法医学ながら重くなり過ぎないよう配慮されている(井浦新演ずる中堂も当初は粗野なキャラクターとして描かれたが、物語の中盤以降、コメディーリリーフ化する)。加えて、松重豊演じる神倉所長は、トボけた味でチームを緩くまとめつつ、いざというときは体を張って部下を守るという頼れる上司だ。

そう、『アンナチュラル』の描く世界観は、緩く、やさしい。それは今の社会が求める理想の医療ドラマを体現したものでもある。 そう言えば、あの『コウノドリ』の世界観も、これに近い。鴻鳥先生はどこまでも患者寄りで、優しい。医療ドラマが時代の鏡と言われるのは、こういうことである。

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