眠れる得意技が転職左右 自分ブランド高める掛け算
経営コンサルタント 阪本啓一
台湾・台中にあるスイーツ店「宮原眼科」のレトロな建物。=PIXTA
ブランドは人間の脳内に生まれるイメージです。そのブランドを知っている人の脳内にイメージが結ぶから、ブランドとして成立するのです。
セカンドキャリアを準備するにあたり、「自分をどうブランディングするか」はとても重要です。今日はそのお話をしましょう。
「眼科」なのにスイーツ店
おいしいスイーツ店は世の中にいっぱいあります。おしゃれなスイーツ店もあります。歴史的建造物をリノベーションして店舗にしているスイーツ店もあるかもしれません。しかし、この3つの要素、「おいしい」「おしゃれ」「歴史的建造物のリノベーション」を掛け合わせた店はなかなか見当たりません。しかもスイーツ店なのにネーミングが「眼科」。この4つを兼ね備えた店が台湾・台中にあります。
スイーツを売って行列のできる人気店「宮原眼科」は、1927年に鹿児島県知覧出身の宮原医師が開業しました。たいそう繁盛したようです。戦争が終わり、宮原氏は日本に帰国。建物は台湾政府が没収し、衛生関連の施設として使われていたのが、お役目を終えて何十年も放置されたままでした。
地震や台風で損壊したのを、地元のパイナップルケーキで有名なお菓子屋さんがリノベーションし、おしゃれなスポットになっています。1階がスイーツ店、2階がレストラン。この店のおかげで、これまで台北から南の高雄へと、台中を素通りしていた観光客の流れが変わりました。「立ち寄ってみようか」と考える人が増えて、観光ルートまで変わったといいます。
何といってもデザインがかっこいい。建物を支えるために鉄骨で骨組みを新たに作る一方、レンガ壁はそのまま残して、張壁つまりカーテンウオールとして利用しています。もともとの建物では屋根を支えていた木材は装飾として、余った木材は本の形で書棚に使われています。非常にセンスのいい設計士の仕事です。スイーツ店なのに、ネーミングが「宮原眼科」のまま。これでブランドとして申し分のない「とんがり」が生まれました。
宮原眼科の建物内に1歩踏み込んだら、レトロな建築物の空気感と現代的でかわいいスイーツのパッケージとの対比する面白さにワクワクします。店のスタッフのとびきりの笑顔がさらに気分を上げてくれます。
2階にあるレストランの厨房は、客席から見えるオープンキッチンですが、みんな笑顔で楽しそうに働いています。そんな彼らの作る料理がおいしくないはずがない。そう思わせてくれます。フロア担当は日本語や英語混じりで一生懸命に対話しようと試みてくれます。「眼科」でアイスクリームを並んで買う面白い体験も他にはないものです。ブランディングを仕事としている私にとっては「やられた!」感が満載の楽しい体験でした。